[11'09''01 セプテンバー11] 11'09''01 September 11
2003年4月5日より銀座テアトルシネマにてレイトショー

監督:サミラ・マフマルバフ[イラン]、クロード・ルルーシュ[フランス]、ユーセフ・シャヒーン [エジプト]、ダニス・タノヴィッチ [ボスニア]、イドリッサ・ウエドラゴ [アフリカ]、ケン・ローチ[イギリス]、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ[メキシコ]、アモス・ギタイ[イスラエル]、ミラ・ナイール[インド]、ショーン・ペン [アメリカ]、今村昌平[日本]
(2002年/フランス/2時間14分/配給:東北新社)

∵公式サイト

【STORY】
[イラン]泥煉瓦の防空壕作りに励む庶民の噂話、若い女教師は子供達を集めて「遠い国の高層ビルでのテロ」の犠牲者への追悼という概念を、理解させようとするのだが…‥。
[フランス]NYにやってきた耳の聞こえないフランス女性が、つき合って1年たつ手話ガイドのアメリカ男性の部屋で、別れの手紙を書く…‥無音の9月11日の出来事。
[エジプト]映画監督の前に、ベイルートの自爆テロで死んだ若い米兵が現れる。彼のアラブ女性の恋人やテロ殉教者の家、アーリントン墓地と時空を超えて、幽霊との愚直だが真摯なテロ問答が繰り広げられるが…‥。
[ボスニア]荷物をほどく気になれない難民女性。隣人の車椅子の戦傷男性と、平和集会デモに出かけるのだが、皆TVに釘付けで「それどころじゃない」という様子に苛立つ…‥。
[アフリカ]病気の母の薬代と学費の為に、町で見かけたビン・ラディンを同級生達と捕まえて、賞金をもらおうとする少年達の冒険。
[イギリス]亡命チリ人の語る「もう一つの9.11」、1973年9月11日のアメリカによるチリへの暴力的介入の告発が、当時のニュース映像を交えて淡々と提示される。
[メキシコ]闇の中の詠唱、時折フラッシュでニュース映像の飛び下りる人影が映り、報道音声や電話の声が惨劇を伝える、鮮烈なヴィジュアル・サウンド・アート・メッセージ。
[イスラエル]エルサレム通りでの自爆テロの処理風景。救急隊員と警察と軍、同時刻のNYテロを知らずに興奮する女性記者の右往左往をワン・シークエンスで追うシニカルな目。
[インド]イスラム教徒のインド系移民の苦難の実話。テロリストとして手配される息子、隣人の冷たい目。救助活動で死亡したと判明して一転英雄扱い、母親の忸怩たる思いを描く。
[アメリカ]淡々と描写される一人暮らしの老人男性の暮らし。暗いアパート住まいに、奇跡を呼ぶ「陽が差す瞬間」が訪れる…‥悪趣味なまでに痛烈な諷刺詩。
[日本]山奥の村で、復員兵が蛇になって困惑する話。住職と浮気する妻も、老いた父母も、家畜を喰われる村人達も、彼を疎み、後ろめたさに開き直る。で、筆文字の反戦表明。

【REVIEW】
2001年9月11日のNYワールド・トレード・センターへのテロ=「9.11」テロ事件をモチーフに、世界各国の11人の実力派映画監督がそれぞれの視点から描いた約11分の短編をまとめたオムニバス映画である。日本では昨年(2002年)の9月11日にメモリアル上映という形で劇場や地上波(毎日放送)、衛星放送にインターネット放送という同時多メディア展開による一斉上映が行われた。その反響の多さから一般劇場公開が決定したという。

ま、上の要約あらすじでは、何だか全然わかんないだろうから、とにかく劇場で現物を観よう! 「事件」からたった一年後に上映するって条件下で作られたものだから、それぞれの映像作家の「事件」の咀嚼具合、その思いの丈の整理具合、「エイヤッ」と割り切って作品化に向かう気合いの入り具合などなどのバラつきがそれぞれにあって、その「具合」自体がひどく興味深いはず。それは本作初発表の7ヶ月後=「事件」の1年7ヶ月後である現在に「劇場で」「幾許かの金品を支払って」観ることで、かえって静かにリアルに胸に迫るはずだ。「今」この短編映画集を観ることの意味は、「事件」をTVニュースで観た直後に「ひどい」とか「大変だ」とか、あるいは「その手があったか!」(by小林よしのり)とか「ざまーみろ」とかとか、様々な感想を持っただろう人が、1年後に改めて振り返る想いとも、また違う少し落ち着いた感慨があるはずだし、もしかしたら「今」がその「考える」絶好の機会かもしれない。ビン・ラディンを探してのアフガン戦争(01年10月7日開戦)も、いつの間にかフセイン探しにシフトしてのイラク戦争(03年3月20日開戦)も経て(まだ最中でもあるのだが)しまった「今」。ついでに『ボーリング・フォー・コロンバイン』のマイケル・ムーア監督がアカデミー賞授賞式(3月24日)で「ブッシュよ恥を知れ!」と吠えた後、というこの「03年4月の時点」で、01年の「9.11」とは何か、何だったのか?を、冷静に考えたい。それがたぶん観客それぞれの中で12番目の作品になる。と思う。

ちなみに僕は『アモーレス・ペロス』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ[メキシコ]のが一番「好き」で、『炎のアンダルシア』のユーセフ・シャヒーン[エジプト]には「わかりやすい(過ぎる)愚直さにこそ一票な気分」。そんな感じ。問題は『うなぎ』『カンゾー先生』『赤い橋の下のぬるい水』の今村昌平[日本]なのだが…‥僕はこれはズッコケて「はらほれひれはれ」とか言わせようってオチなのか、とも思ったんだけど、結構評判がいいのにビックリしたのだった。あ、御存じ名優ショーン・ペン[アメリカ]の監督作は、痛烈なエグさが「いたたたた」って感じでエモーションを右往左往させてくれた(『プレッジ』は嫌いだけど、この短い痛さははちょっと好きかも)。この短編集、人によって作品評価が全く違う感じなのも面白いので、みんなもこの11の作品の中で、どれが「好き」か、どれが「すごい」か、どれが「ダメ」か――ってやってみることをオススメする(「不謹慎」かもしれないが、「考える」ってことはそこから始まるはずだと思う)。

Text:梶浦秀麿


Copyright © 2003 UNZIP