[シモーヌ] SIMONE
2003年9月13日(土)、日劇3他全国東宝洋画系にてロードショー

監督・脚本・製作:アンドリュー・ニコル/出演:アル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、キャサリン・キーナー、ウィノナ・ライダー他
(2002年/アメリカ映画/117分/ギャガ・ヒューマックス共同配給)

→COLUMN“feminine optics”「シモーヌ×レイチェル・ロバーツ」

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【STORY】
忽然とハリウッドに現れ、カンペキな美貌で世界を虜にした女優、シモーヌ。私生活は一切謎という秘密主義が人気に拍車をかけるが、それもそのはず。その正体は、落ち目の映画監督タランスキーが創り出したCG女優だったのだ!しかし、シモーヌ人気は留まるところを知らず、遂にはアカデミー賞にノミネートされてしまい…。

【REVIEW】
CGの技術が進むにつれ、映像は本物に限りなく近づいている。とはいえ役者稼業だけはまだCGには追いつかれていないと言われているし、一生追いつくことが出来ないと言う人もいる。しかし、『スターウォーズ』のCGヨーダはライトセーバーをぶんぶん振り回し、『マトリックス』のCGネオも大勢のエージェントスミスと格闘していた。そう考えると近い将来CG俳優が生身の人間と対等に演技しあっていてもおかしくない気もする。そんな可能性を考えさせてくれるのが『シモーヌ』だ。

映画監督タランスキーはかつてアカデミーに二度ノミネートされたことがある経歴を持ちながら、最近は芸術性を追い求めるばかりに大コケだらけですっかり落ち目。誰も相手にしてくれなくなった中、CG女優とともに世間に返り咲く野望を抱くのだけど、そんな人間味溢れるタランスキーを哀愁たっぷりに演じているのが名優アル・パチーノだ。幾度と無く出てくるコミカルなシーンも抜群だが、やはり背中から憂いをにじみ出す演技で彼の本領は発揮される。パチーノ自身タランスキーの生き方に惚れただけあって役になりきり、ただの軽い作品に終わらせていないのはさすがだ。そして、そんなタランスキーに作り出されたシモーヌを演じているのは映画初出演のレイチェル・ロバーツだ。トップモデルとしての活躍が世界的に有名だから、ファッション誌の表紙でお目にかかったことがある人も多いことだろう。演技力をこの作品で判断するのは難しいけれど、スクリーン上の存在感はかなりのもの。人間離れした美がCG女優という設定を違和感なく見せられるのは、ある意味凄いと思う。

本作の監督は『ガタカ』『トゥルーマン・ショー』のアンドリュー・ニコル。この監督はどうやらちょっと先の近未来とシニカルな内容を描くのがお好きなようだ。現実と非現実、優劣の差、そして善悪の定義など、曖昧模糊とした境目に焦点を当て、価値観やモノの捉え方についてあらためて考えさせらるテーマが含まれている。とはいえ説教臭いわけでもないし、どんな監督なんだろうと思っていたら最近プロモーションのため来日した。実際に間近で監督を観た印象は“ちょっと偏屈そう”(笑)だったけど、どこか冷めた視線と寡黙な佇まいが印象的だったなあ。

とあるアンケートでは「気にならなければCGの女優でも構わない」という声が圧倒的に多かったとか。実際にバーチャルな役者を起用している作品も数多く出てきていることだし、そのうちシモーヌのような存在が珍しくなくなる日やCG俳優がアカデミーにノミネートされる日も来るのでしょうね。でも、それに併せてアカデミーノミネートは「100%生身の人間に限る」なんていう規則が出来るかもしれないけど。そうそう、最後にひとつ。タランスキーの名前の由来はタランティーノとタルコフスキーだそうですよ。

Text:うたまる(キノキノ


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