[アイデンティティー] Identity
2003年10月25日より、ニュー東宝シネマほか全国東宝洋画系にて公開

監督:ジェームズ・マンゴールド/出演:ジョン・キューザック、レイ・リオッタ、レベッカ・デモーネイ、アマンダ・ビート、ジョン・ホークス、アルフレッド・モリーナ、クレア・デュヴァル、ウィリアム・リー・スコット、プルイット・テイラー・ヴィンス、ジョン・マッギンリー、ジェイク・ビュシーほか
(2003年/アメリカ/1時間30分/配給:ソニー・ピクチャーズエンターティンメント)


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【STORY】
「階段を上ってたらまた姿のない人に会った……そこにはいない人に……」「母親のことを話してくれ」「ママのことか……覚えてるよ……ママは忙しかった」「君は何故ここに?」「頭痛を治してもらう為だ」「君は人を殺した」「覚えてるのはコロンビアが州都だということだ……人生は虚しい」「98年5月10日にアパートの住人達を殺したのは君か?」「俺の誕生日だ」……。精神科医師マリック(アルフレッド・モリーナ)は、死刑囚マルコム・リヴァース(プルイット・テイラー・ヴィンス)の面談テープを聴き直して、何かに気づく。外は、記録的な豪雨が降り続いている。/ネヴァダ州をハリケーンが襲い、道路があちこちで冠水し、砂漠の中の古ぼけたゴールデンパーム・モーテルに11人が閉じ込められる。モーテルの支配人ラリー(ジョン・ホークス)、車にはねられ瀕死のアリス、その夫のジョージ(ジョン・マッギンリー)と小さな息子のティミー、彼女をはねたリムジンの運転手エド(ジョン・キューザック)、その雇い主である落ち目の女優カロライン(レベッカ・デモーネイ)。さらに娼婦のパリス(アマンダ・ピート)、新婚夫婦ルー(ウィリアム・リー・スコット)とジニー(クレア・デュバル)が加わり、最後にはパトカーで囚人を移送中の刑事ロード(レイ・リオッタ)とその囚人ロバート(ジェイク・ビュシー)がやってきた。モーテルの電話は不通。警察の無線も当てにならないまま夜は更ける。/真夜中に急遽、裁判所に呼ばれた判事。明日死刑執行予定の死刑囚の再審理を行うという事態に苛立っていた。弁護側が「意図的に隠蔽されていた」日記を発見したと言うのだ。それによって死刑判決を覆すつもりらしい。しかも6人もの連続殺人を犯した囚人本人も同席させるというから正気の沙汰では無い。一体、何をするつもりなのか?/モーテルでは、それぞれが不審な動きをみせる。自室の写真を片付けだすラリー。バッグの札束を確認するパリス。実は元LAの警察官だったエドは、8号室のカロラインの姿がないことに気づき、ロードらと捜索の末、ランドリー室の乾燥機の中からその“一部”を発見する。一緒に何故かロード刑事と囚人にあてがわれた10号室のルーム・キーがあった。それから一人、また一人と殺され、死体の傍らには9号室、8号室……とモーテルの鍵が添えられる。一体誰が? 何の為に? やがて驚愕の真相が明らかになり、そしてさらなる衝撃が待ち受ける!

【REVIEW】
「この映画を見ようと思っている方は決して、本文を読まないでください」とビッグコミック・スピリッツ10/13号で『ホムンクルス』連載中の山本英夫が警告するように、なるべく予備知識無しに観て欲しい。ので以下(できれば粗筋も)は読んじゃダメです。

実にトリッキーでクレバーな、凄いサイコ・サスペンス・ミステリーである。嵐で閉ざされたモーテルにいた11人が、ひとりずつ殺されてゆく。殺された者は10、9、8……とルーム・キーでカウントダウンされている、ということは生き残るのは1人、その人物が犯人なのか、それとも11人の他に真犯人が? いや、これはモーテルの裏手にある、強制移住させられて死んだインディアン(ネイティヴ・アメリカン)部族の墓地の“呪い”なのかもしれない。だが何故今になって……? というかこれはホラー映画なの?? もうひとつの物語では数年前の6人惨殺事件の犯人の死刑が明日に迫っていたが、後1週間ほどでその事件と同じ日だということも関係あるのか?――と謎が謎を呼ぶ展開に、どんな結末が待ってるのかと不安になってたら……あーなるほど!その手があったか!!なトンデモナイ大技が決まり、呆気にとられてるとさらにケタグリを食らうって案配。ロジックは完璧、でもこれ何喋ってもネタバレになっちゃう! えーと……。とにかく観て驚け!

監督は『君に逢いたくて』『コップランド』『17歳のカルテ』『ニューヨークの恋人』のジェームズ・マンゴールド。作品傾向が読めん。でもしっかりした骨格のハリウッド大作が撮れる人だ。本作もとにかく話の処理が巧くて、冒頭のリワインドなエピソード展開なんか絶品。まずTVの単語作りクイズ番組に突っ込み入れてるモーテルの支配人の所に「交通事故だ!」と飛び込んでくる数名がいて、すぐその事故当時の再現が多視点で手際よく語られてゆく小気味良さ! 些末な部分だけバラすと、劇中の密室状況モーテル編には11人6組=つまり6台の車が登場するんだけど、まず3組のドライブ・シーンが有機的に絡まって描かれて2台がイカれる。もう1組の登場でさらに1台が川に突っ込んで使用可能な車は1台のみに。そこに警察車の1組が登場して支配人のボロ・トラックと合わせて3台となるも警察車はガス欠(しかも……)、1台は爆発(!)、残るトラックは不幸な激突事故を起こしつつなんとか“脱出”に使えるかも……という移動手段まで限定してゆく絶妙さは「そこまでロジカルじゃなくてもいいのに」と思えるほどクレバーだったりするのが、メイン・テーマにまで関わるこの話のミソと言えるだろう。細部に凝ればいくらでも長く続けられそうなのにきっかり1時間30分に抑える潔さもよい(柳下毅一郎訳のノベライズでは2時間ものくらいにじっくり書き込まれているので、観てハマった人は読むべし)。脚本は『キラー・スノーマン』シリーズの脚本・監督で英国では劇作家として知られるマイケル・クーニー。出演者もジョン・キューザック(『グリフターズ』『狂っちゃいないぜ!』『マルコヴィッチの穴』『ハイ・フィデリティ』『セレンディピティ』など)、レイ・リオッタ(『ハンニバル』『ジョンQ』『ブロウ』など)、クレア・デュバル(『パラサイト』『17歳のカルテ』『シーズ・オール・ザット』『ゴースト・オブ・マーズ』など)、アマンダ・ピート(『チェンジング・レーン』『ハイ・クライムズ』『隣のヒットマン』など)、レベッカ・デモーネイ(『卒業白書』『バックドラフト』『ゆりかごを揺らす手』『ストレンジャー』など)他、ちょい癖のある役者ばかりで、微妙な贅沢感あり。

余談。この映画は90年代半ばから一大潮流となっている日本のメタ新本格ミステリーと同じ感触がある。バカミスとも呼ばれてるんだけど、ミステリーというジャンルの約束事自体を逆手にとった上で狼藉を働き(笑)、その形式自体の形而上的謎まで追求しちゃうようなハイパー推理小説、特にK××ノベルズ系の味がしたのだ。例えば「常人には見えないものが見える脇役が活躍したあげく、実は真相は普通に誰でも見えるもので、ただ語り手だけに見えて無かったので事件解決に時間がかかったのだ」とか「不可能犯罪による連続殺人にみえたものは、実は全部志願者の自殺だった」とか「アリバイ崩しで見事に事件解決、でも実は推理は間違ってて真相は時空旅行能力者がタイム・トラベルしてアリバイを作っていたのだ」とか、「特殊な清掃業をしている副主人公がその特殊な清掃物件に事件の鍵を見い出して探偵みたいなことをするのだが、実は自作自演=自分で汚した場所で事件を起こしていた」とか、オチがわかってしまえばギャフンなんだけど(どころか怒ってしまうものも多い。例に挙げた最後の小説はK×系じゃないベストセラー小説だが、始まりと終わりが「花が泥棒したんだ、いや花って人の名前だよ」みたいな幼稚なオヤジ・ギャグお洒落風味だったり、結局は身内に裁きを任せるつもりの計画殺人者だった、なんて独り善がりな倫理観が不快過ぎる)、でも巧いヤツは語り口や展開が絶妙で、かつドンデン返しよりも作品全体のメタ・メッセージが深かったりするのでつい許してしまったりするワケ。で、この映画はまさにその手のバカミス的な巧さがちょっとあるのだ。まあ劇中で古典的推理小説、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった(Ten Litlle Niggers/米題Ten Litlle Indeians→後にAnd Then There Were Noneと改題)』の映画版(おそらく74年のリメイク版の方)の話がチラッと出てくるので、そういうミステリ思考法(“見立て殺人”=人間「論」のメタファーとか“トリック”=錯誤や盲点を衝く不可知論への誘いとか)を踏まえてるって目配せはバッチリ。さて、アッと驚く大オチの後、その衝撃が語られてきた物語をバカッと破壊し再構成する時、メタ・メッセージとなるのは何か? 童謡「10人のインディアン」が関係あるのか、最近の精神医学と量刑の問題が皮肉られるのか、萩尾望都『11人いる!』を読み返すべきなのか、「人生は虚しい」が重要なキイワードなのか、題名の『アイデンティティー』というシンプルさは『閉ざされた森』の原題『ベーシック』に似てるが、あの映画もドンデンが強烈で個人的には『ソードフィッシュ』を思い出したなぁとか、はてさてここらを読むと余計ミスリードされちゃうように書く僕の意地悪さに呆れず(笑)、どうか観てみて欲しいのだった。

Text:梶浦秀麿


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