[死ぬまでにしたい10のこと] my life without me
2003年10月25日よりヴァージンシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー

監督・脚本:イザベル・コヘット/エグゼクティブ・プロデューサー:ペドロ・アルモドバル 他/出演:サラ・ポーリー 、マーク・ラファロ、スコット・スピードマン、レオノール・ワトリング 他
(
2002年/スペイン・カナダ映画/106分/配給:松竹)

∵公式サイト

【STORY】
アンは23歳の主婦。17歳のファースト・キスの相手ドンと子供が出来て結婚、19歳で次女を出産。母の家の裏庭にあるトレーラーハウスで暮らしている。夜に大学の清掃作業の仕事をこなし、ホテルの厨房で働く母を拾って車で帰り、眠ったかと思ったらすぐに朝が来て二人の娘のために朝食の準備をし、家事に追われる毎日。そんなある日、失業中の夫ドンが二人の娘を学校に送って行ったあと、腹痛で倒れ病院に運ばれる。検査の結果は癌。あと2ヶ月の命と告知される。アンは夜明けのコーヒーショップで死ぬまでにしたいことリストを作り、ひとつずつ実行に移していく。癌であることを誰にも告げずに…。

【REVIEW】
あなたの命はあと2ヶ月です。
そんなことを急に告知されたら、どんな態度を取るだろうか。泣きわめく?あっさり認める?とにかくショックなことには違いない。主人公のアンは大切な家族を思い、気丈なまでに平然と振る舞おうとする。そして、誰にも知られずに、自分で決めた死ぬまでにしたいこと、しなければならないことを少しずつこなしていく。

『ニューイヤーズデイ 約束の日』という作品では、事故にあって生き残った二人の男の子が12の課題を1年以内に実行してから後を追って命を絶とうとする物語だったけど、アンのしたいことはそういう衝動的・破滅的な心理から来る行動ではない。一旦腹をくくると女性の方が潔いとどこかで聞いたことがあるが、まさにアンの態度がそうだろう。もちろん悲しみや寂しさを全て乗り越えたわけではないけれど、死ぬまでにしたい10のことがそれを和らげ、母親として、そして一人の女性として生きることの充実感を見出していく。

最近は日本でも癌の告知を本人に行うケースが増えたようだが、アメリカではほとんどのケースで本人に告知されるらしい。その背景には医療訴訟の増加により告知を行わなかった医師の敗訴が多いこと、それに、癌を認識した上で積極的に治療に参加すると、救命率および延命率が高くなることが臨床研究から科学的に実証されたからだそうである。そういった意味で、医師がアンに告知をしたのは当然なのだが、最初の告知では、医師はアンの顔を見ることが出来ない。すでに体中に癌が転移し、直る見込みが無い上での告知だからだ。しかし、再び顔を合わせた時には積極的に向き合おうとする。そこにはお互いの心構えの変化が見て取れる。医師の優しい視線が印象的だ。

アンを演じるのは『スイート・ヒア・アフター』『めぐりあう大地』などのサラ・ポーリー。何気ない仕草とどこか冷めた視線が不思議な存在感を醸しだしている。また、夫ドンには『デュエット』TVドラマ『フェリシティの青春のスコット・スピードマン、一時的な恋の相手リーには『ウィンド・トーカーズ』のマーク・ラファロ、アンの職場仲間ローリーに『ガープの世界』『バタフライ・キス』のアマンダ・プラマー、アンと同名の隣人アンに『トーク・トゥ・ハー』のレオノール・ワトリング、そしてアンの母にブロンディのヴォーカリストでもあり『ビデオドローム』『ヘアスプレー』で女優としても活躍するデボラ・ハリーらが共演し、確かな演技力と誰もが前に出過ぎないバランスの良さで、物語を支える。

プロデューサーは『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』のペドロ・アルモドバル。アルモドバルが監督した作品と言ってもおかしくないような繊細な描写で溢れた本作は、彼が見出した『あなたに言えなかったこと』のイザベル・コヘットが監督・脚本を担当している。女性の方がより深く味わえる中身に仕上がっていると思うが、死を意識してからの生き方は男女関係なく学ぶところが多い。そして、悲観的ではなく、どこか優しげな雰囲気に包まれた物語を堪能したあとは、いくつも登場する様々な愛の形について考え、原題の「my life without me」の意味をかみしめてみるのもいいだろう。

Text:うたまる(キノキノ
ある日突然「あと2ヶ月の命です」と宣告されたなら・・・。その時初めて、人生をいとおしく感じるようになったとしても遅過ぎはしない。

『オール・アバウト・マイ・マザー』のペドロ・アルモドバルが製作総指揮を務める、死を告知された女性の葛藤を描いたドラマ。

アン、23歳。17歳の時、ニルヴァーナのコンサートで出会った夫との最初の子供を出産、今では既に2児の母親。現在、夫は失業中で家計はきびしく、実家の裏庭で家族4人のトレーラー暮らしをしている。貧しくても、それなりに幸せだと思っていた。そんなある日、余命2ヶ月と宣告され、「一体今までの人生は何だったのだろう?」と呆然とする。せめて残りの人生を楽しみたい、死ぬまでにできることは何だろう?そしてアンが決意した【死ぬまでにしたい10のこと】

死に行くためのリストをこなして行くにつれ、アンは生きる事の喜びや、自分を取り巻く人々への愛情を改めて感じていく。私が死んでしまった後の、今ここにある“この生活”。それは確実に、自分の不在に関わらずこれから先もずっと続いていく・・・。

死の告知を扱うコンテクストでありながら、サラ・ポーリーのクールな演技と、イザベル・コヘットの女流監督ならではの繊細な心理描写は、ドラマティカルになり過ぎないさりげなさで、アンが自分の死によって家族や恋人に悲しみだけではなく幸せを残していったように、観るものに涙と幸福の後味を残してくれる。

Text:yukiko kodama



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