[サル]
2003年12月6日よりテアトル新宿にてレイトロードショー

監督:葉山陽一郎/出演:水橋研二、鳥羽潤、大森南朋、草野康太、水川あさみ、戸田昌弘、中谷彰宏ほか
(2003年/日本/107分/配給:アルゴピクチャーズ)

→葉山陽一郎l監督、水橋研二、鳥羽潤&大森南朋インタビュー

【STORY】
自主製作映画の製作資金を得ようと福家は、撮影仲間で俳優の井藤の紹介で、助監督の磯村や他のスタッフと共に、新薬投与実験のアルバイトをすることになった。5泊6日で多額の報酬がもらえると聞いて参加した彼らだが、日が経つにつれ、退院させられる患者や、精神に異常をきたす患者が現れ、異常な事態が起きていることに気付き始める。緊張感が徐々に増していく患者たち。果てはメンバー同士にも不信感がわき上がり始めるのだった。

【REVIEW】
「都市伝説」なるうわさ話は何処にでもあって、面白いのは、若干ディティールは異なれど、話の内容はほぼ同じものが全国に広まっていることだったりする。一体誰が広めたのか、そしてどういう経緯で広まっていくのかを知りたくもなるが、そもそも、その話を作った人はベストセラー作家ばりに凄いと思う。まあ、事実が尾ひれを付けて広まっただけなのかもしれないけれど、認知度が全国的というのは本当にすごいことだ。ちなみに、小学生の時「緑婆」なる全身緑のお婆が学校裏の林にいたとか、ベランダから覗いていたという噂が広まり、先生たちがなだめるほど大騒ぎになった。いつのまにか自然消滅して、誰も口に出さなくなったから「緑婆」は全国区に広がるだけのカリスマ性を持っていなかったのだろう。

一昔前だと「口割け女」「トイレの花子さん」とかが有名だったかな。子供心にウソつけーなんて強がっていたけれど、本当にいたらどうしようなんて実はビクビクしていたっけ。そういえば「家に帰ってきたらベッドの下に誰かが包丁を持って隠れていた」という話も色々な人から聞いたことがあるけど、友達の友達が体験したことばかりで直接そんな目に遭遇した人に会ったことは無い。海外でも日本と同じようなうわさ話があったりして『ルール』という映画でも取り上げられていたっけ。

バイトがらみのそういった話では「死体洗いのバイト」「バキュームカーの掃除」「血を売る」「臓器販売」とか、人づてには聞くけど実際に体験した人は周りにいない不思議なバイトが存在する。「新薬投与の実験」もそうだけど、これは比較的身近かも。なにせ、この『サル』の葉山監督は自らの経験をもとに、この映画の脚本を書き上げたのだから。「治験体験ムービー」と監督自ら命名し、ドキュメンタリー風な映像で作られたこの作品では治験がどんなもので、どういった課程で製薬会社が人体実験をするのかが判る。以前『ブレアウイッチ・プロジェクト』がいかにも現実という風に描いて話題をさらったが、『サル』も同じような雰囲気を醸し出しつつ、似て異なる作りになっている。

『月光の囁き』『カノン』の水橋研二、『殺し屋1』『ヴァイブレータ』の大森南朋、『光の雨』『RED HARP BLUES』の鳥羽潤をメインに、草野康太、水川あさみ、戸田昌弘、中谷彰宏らが出演し、作品に彩りを添えている。とくにやんちゃな福家(水橋研二)とそれを押さえなだめる磯村(大森南朋)、そしてどこかクールな井藤(鳥羽潤)の関係は等身大で、いかにも現実的だ。

全体的な印象として、治験を描いたドキュメンタリー風の映像や、製薬会社の陰謀や病院内の不思議な雰囲気を描き出したサスペンス、そして気が狂っていく患者たちや夜中の病院を映しだしたホラーの要素がミックスされた具沢山の内容に仕上がっている割に、もうひとスパイスあっても良いかな?という物足りなさを感じてしまうのは否めない。とはいえ、それがイコールつまらないということにつながらないのは、今まで多くの脚本に携わってきた監督の物語の組み立て方のうまさによるものだろう。深いテーマにチャレンジしたとか、反社会的な姿勢がどうのとか、世論がどうのとか、そんな構えて観るよりも、一風変わった青春群像劇を一緒に“体験する”のが正しい「治験体験ムービー」の鑑賞スタイルかもしれない。

Text:うたまる(キノキノ



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