Elephant
少年たちは「大人は判ってくれない…」とさえ思っていないのかも知れない。
『ドラッグストア・カウボーイ』のガス・ヴァン・サント監督が描くもうひとつのコロンバイン事件。

REVIEW:
それはいつもと変わらない良く晴れた秋の日のこと、残酷で不可解な事件は起こってしまった。

今朝もアル中の父親に手こずるジョン。そんな訳で遅刻常習犯になってしまっているジョンも、ふと涙することだってある。美大応募用のポートフォリオ制作に夢中のイーライは、廊下ですれ違ったジョンにシャッターを切る。アメフト部のスターに熱い視線を送る仲良し三人組の女の子達のおしゃべりは取り留めもない。いじめだってある。自意識過剰の子、授業中に嫌がらせされるアレックス…少し居心地の悪くなるような高校生達の普段通りの1日は始まり、残虐に終わる。

その視線の先に何をみているのか測り知れない少年達、けれど彼等の日常には確かに何かがある。単純に銃や社会に対するアイロニー、非難だけで答えがみつかるという訳ではなく、その“何か”を思い出すことから始めなければいけないのではないだろうか?今までに、少年の視線で【少年】を描き続けてきたヴァン・サント監督独自の表現方法で描かれたもう一つの「あの事件」はそんなことを考えさせる。

青く澄みわたる秋の空とベートーベンのピアノソナタ、何かを抱えながらもきらきらしている少年達の映像。そんなエフェクトは、誰もが一度は通ってきた、確かに残酷だった高校生活をメランコリックに痛烈にフラッシュバックさせる。大人になった今ならば、当時抱え切れなかった問題に素直に向き合えるかも知れない 。

Text:Yukiko Kodama

Other Reviewer's Comment:
残酷で悲しく、それゆえに恐ろしく美しい、叙事詩のような映画である。異なるカメラワークで繰り返されるシーン。同じ出来事が異なる人物の視点から描かれているのだが、この一見奇をてらったかのような手法が、それぞれの人物をくっきりと浮かび上がらせる。映画が終わったときに強く印象に残るのは、問題の出来事よりもそれぞれの人物であり、それぞれの悲しみである。実際にあった出来事を映画化するとき、この手法はもっともフェアなんじゃないだろうか? 映画を観るわたしたちに与えられるのはガス・ヴァン・サント監督なりの答えではなく「なぜ?」という問いかけだけだ。正直、その問いかけを受け止めるのが精一杯のわたしには答えはまだ見つかりそうにない。

Text:nakamura [UNZIP]


Copyright © 2004 UNZIP.
『エレファント』
2004年3月27日より シネセゾン渋谷他全国順次公開
(2003年/アメリカ映画/1時間21分/配給:東京テアトル、エレファント・ピクチャー)


CAST&CREW:
監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
撮影監督:ハリス・サヴィデス
音響デザイン:レスリー・シャッツ
主演:アレックス・フロスト、エリック・デューレン、ジョン・ロビンソンほか


REVIEWER:
Yukiko Kodama
nakamura [UNZIP]


INTERNAL LINK:
『ボウリング・フォー・コロンバイン』

EXTERNAL LINK:
『エレファント』公式サイト