BIG FISH
ホラ話が得意な父親の真実に迫ろうとする息子が、父の生涯を検証してゆく……。
オタク趣味な悪趣味ファンタジーから地に足のついたヒューマン・ドラマに?
いや紛れもなくティム・バートン味のする「いい話」なのだ!

REVIEW:
いやあいい話だ。←って素直に言っていいのか、相変わらず巨人症男やらシャム双生美女やら、片目が義眼の老婆=魔女やら狼男やらってなティム・バートン趣味のキャラが随所に出てくる映画なのに……。舞台設定の方も、ブキミな森の木々は『スリーピー・ホロウ』同様もうベタと言っていい感じで襲いかかってくるし、桃源郷神話か浦島伝説をひねったお伽話のような「隠れ里」=裸足主義者の町は『シザーハンズ』の郊外住宅地を微かに思い起こさせるし、また洪水で水没した赤いアメ車(ダッジ・チャージャー)の中から見えるのは人魚のように泳ぎ回る裸の女=水の精だし、そのイメージが連結するタイトル絡みの「川の主」=ビッグ・フィッシュとのやりとりなども含めて、いかにもバートンの奇想をヴィジュアル化した愉し気なものに思えるのだから、これを「ティム・バートンが大人になった」とか評して「普通の感動作呼ばわり」するのは間違ってる気もする。もちろん、そうした逸話の主である、アルバート・フィニー演じる死期の近い父親エドが、浴槽にガウンを着たまま沈んでみせ、それを見つけた彼の妻(ジェシカ・ラング)が一緒に服着たまま入って、水風呂で抱き合うシーンの、なんとも言えないリアルでエモーショナルな印象は、これまでのバートン作品になかったものかもしれない(『マーズ・アタック』には微かにあったかも)んだけどさ……。

オタク趣味なファンタジーから地に足のついたヒューマン・ドラマに――という風に「円熟期」の「集大成」的作品として『ビッグ・フィッシュ』を位置付けるのは、確かに正しいし楽でもある。ファンタジーと現実の和解の手段として、ホラ話とそれを語る男の現実という二重構造の映画になってるアザトさを気にするのも野暮だし、つまりは大きなホラ話の元ネタである事実をばらしてゆくようなスケールダウン感というベクトルも微妙に嫌だとか、そのベクトルについに逆らってみせる最終的な展開に潜む「妥協」のニュアンスも微かに気に障るとか文句をつけるのは、あまり大人な振る舞いではない。ただ素直にウルウルしたって言いたくないだけってアマノジャクな気分なのかもしれないけど、あくまでティム・バートンらしい映画だってことは強調したいのだ。だって前作『スリーピー・ホロウ』も前近代の魔術的世界を代表する魔女の末裔クリスティーナ・リッチと近代的捜査法を奉ずるNYの刑事ジョニー・デップの婚姻の物語だったのだし、本作の結末もふたつの世界の併存をこそ主張しているのだと僕は思うので……。あ、そうか、例えば『デリカテッセン』(91)『ロスト・チルドレン』(95)を作ったジャン=ピエール・ジュネ(+キャロ)監督がハリウッドSF大作『エイリアン4』(97)を経て傑作『アメリ』(01)に辿り着いたって経緯を、「期間は2倍・作品数は4倍程」にすれば、ティム・バートン監督84〜03年の歩みに重なる、つまり『ビッグ・フィッシュ』は『アメリ』に相当するのだ――という大雑把な仮説を今、思いついたんだけど、どうでしょう? いやどうでしょうと言われても困るかもしれんが(笑)。あ、僕の好きなスティーヴ・ブシェミも彼本人自作の詩を披露したりする詩人として登場するので要注目!

Text:Hidemaro Kajiura

Other Reviewer's Comment:
“ティム・バートンが、”“ユアン・マクレガーで、”“ホーム・ドラマを撮っている!”…という噂を聞いた時、ものすごくびっくりしたのだけど、待ちに待った『ビッグ・フィッシュ』はやっぱり大好きなティム・バートン作品だった。映画を「好き」「嫌い」で語ることの肯否はさておき、彼のどこが好きかというと、いわゆるオタク趣味的な部分では決してなくって、例えば『シザーハンズ』を初めてみた時の、あの気持ち。「この映画が、強烈に好き。」という非常に感覚的なところで、完全にまいっているのだ。たぶん、彼の持つセンチメンタルな部分が、とても好きなのだと思うのだけど。

個人的には、「本作でティム・バートンの作風が変った」風な印象はあまりない。ティム・バートンは相変わらずティム・バートンである。ただ、こういったテーマの作品は、これまでのバートン作品にはみられなかったのは確かだ。バートンのファンがこの変化をどう受け入れるかはわからないけれど、わんわん泣きながら映画をみて、思い出しながらせつなくなるこの感じ、自分の宝物みたいに思うこの感じは、求めていたバートン作品だし、ファンタジーが大好きな私が本当にみたいファンタジーは、ティム・バートンだけがみせてくれるような、そんな気さえしているのだ。

Text:nakamura [UNZIP]


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『ビッグ・フィッシュ』
2004年5月15日よりより日比谷スカラ座1ほか全国東宝洋画系にてロードショー!
(2003年/アメリカ/2時間5分/配給:ソニー・ピクチャーズエンターティンメント)

CAST&CREW:
監督:ティム・バートン
原作:ダニエル・ウォレス『ビッグフィッシュ 父と息子のものがたり』(河出書房新社刊)
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、アリソン・ローマン、スティーヴ・ブシェミほか


REVIEWER:
梶浦秀麿
nakamura [UNZIP]

EXTERNAL LINK:
『ビッグ・フィッシュ』公式サイト