L'ENFANT QUI VOULAIT ETRE UN OURS
まるで行間に多くを読ませる絵本のようにシンプルで繊細な、
アーティスティックな氷の国からやってきたきたおとぎ話。

REVIEW:
とりわけ近年、我が国におけるアニメーションの進化といったらものすごい事になっている。そんなアニメ先進国日本ではお馴染みの写実的なアニメとは異質で、まるで誰かに絵本を一ページずつめくってもらっているような人肌のぬくもりに溢れたアニメーションシネマがヨーロッパからやってきた。それは白くまになりたかった男の子のお話である。

イヌイットに伝承される神話に基づき描かれた『白くまになりたかった子ども』は、これまでも多くの芸術性に富んだアニメーション映画を撮り続けているデンマーク・アニメーションフィルム界の巨匠、ヤニック・ハストラップ監督によるもの。一筆一筆の筆圧を感じさせる素朴な画法で描かれる人間や白くまやその他の動物たちは、デリケートな水彩画のごとき氷の世界を背景に、生き生きとすべらかに生を受ける。さらにはそこにブリューノ・クレが紡ぎだす調べが相まって、雪と氷に閉ざされた北極という神秘な世界が絶妙に信憑性を持って描き出されている。

文学ではそこに書かれる文字以外に、しばしば《行間》というものが大切にされる。本作で最も印象的なのがこの《行間》にあたる空間のようなもの。映像にしろストーリーにしろここでは多くが語られず、解釈の大部分は我々観るものに委ねられている。ヨーロッパのアニメーションにはこの作品のような芸術性の高い作品は多くあるが、それにしても大の大人が…大の大人だからこそこんな風な感情移入をしてしまうのかもしれないけれど…ここまでエモーショナルに心をきゅうっと締め付けられてしまうような作品はそうはない。

Text:Yukiko Kodama

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『白くまになりたかった子ども』
2004年7月17日より恵比寿ガーデンシネマにてモーニング&レイトショー
(2002年/フランス・デンマーク合作/78分/配給:ミラクルヴォイス)

CAST&CREW:
監督:ヤニック・ハストラップ
脚本:ミッシェル・フェスレール
音楽:ブリュノー・クレ

REVIEWER:
Yukiko Kodama