ME AND YOU AND EVERYONE WE KNOW
誰もが「私は特別よ」と自信を持ちたい、恋も仕事も……。
ヘンテコ可愛い映画の深〜い愉しみ方の、ほんの一例など。

REVIEW:
映画冒頭で「私は自由になる/私は恐れない/一日一日を人生最後の日のように生きる/最高に素晴らしく/勇気に溢れ/気高く……」と部屋でマイクに吹き込んでるのが、本作のヒロイン、クリスティーン30歳。録音した波の音をバックに、恋人同士が砂浜にいる設定で、一人二役、「私を本当に愛しているなら、誓って欲しいの。私の後に続けて復唱して」とか言って、声色を男声に変えて反復するってのを真剣にやってる。これは彼女のマルチメディア・アート作品の制作風景なのだ。ちょっと観ていて恥ずかしいような、なんだかトッド・ソロンズ『ハピネス』を思い出させる覗き見感覚。

そのクリスティーンに何故か一目惚れされた、ショッピングモール靴売り場店員のリチャードが、離婚したばかりの元妻パムの所に子供を預けにいくシーンが、映画中盤にある。新しい恋人とラブラブらしいパムが、パジャマ代わりに着てるブルー地のロングTシャツには白い文字で「私は素敵/私は個性的/私は無欠/私は立派で/尊敬できる……」と箇条書きされてたりする。リチャードは反射的に「最悪の寝巻きだ」と本音を吐いてしまい(笑)、自尊欲求に飢えてるパムの怒りを買うのだが……。ううむ、どっともどっちだ、犬も食わないなんとやらと気楽に第三者的立場で観ていたんだけど……。

「私は素敵」とパジャマにも誉められたい30代女性と「私は自由になる(はい、リピート)」と仮想恋人に鼓舞され(合い)たい30代女性、僕ならどっちを選ぶだろう?

はてさて。自分をリスペクトするよな二種類の「アイム・プラウド(by華原トモちゃん)」テクストが、一方はコンセプチャルなビデオアート創作場面で、もう一方はちょっと洒落たタイポグラフィックアート商品のデザインとして登場することを、その二つがリチャードから遠ざかる女性と接近することになる女性それぞれの「自分リスペクト表現」でもあることを、ちょっと気にして観てみて欲しい。

この映画は凄〜いクセモノで(笑)、こうやってうっかりほんの細部、ささやかな一部分を取り出してその意味を考えようなんてすると、実に恐ろしい深読みにも辿り着くのだけれど、表面上は「なんとも平凡な、普通な、それでいてちょっと可愛くてちょとヘンな映画」程度の軽妙さを持っていて、ニコニコ・ニヤニヤ気分良く観終わることができてしまうという、不思議な魅力を持った映画なんである。ここに挙げたのは本当に数十あるうちの一例でしかない、まるで「しっかり煮込んで物凄く濃縮させたアイデア/コンセプトの、澄んだ上澄みのみのスープを供す、郊外の住宅地の隠れた名店」って風情。新人監督/主演女優ミランダ・ジュライ。「天然」のようでいて、侮れない。

Text:Hidemaro Kajiura

Other Reviewer's Comment:
試写状を見た瞬間に「好きな映画が来た!」と思った。こういう勘は当たるのだ。わたしは同世代の新人の監督の映画がとても好きで、彼らに共通しているのは「観たかった映画」を観せてくれること。映画を観たときに「あぁ、この映画が観たかったんだわ」と思うのは、非常に楽しい経験である。ミランダ・ジュライの初長編映画『君とボクの虹色の世界』もまさにそんな作品の一つだった。いままでに見たどの映画とも違う、まったく新しいところがありながら、あたたかくてやさしい。そして、マイク・ミルズの女性版とも言えそうなサバービアなムードと、オルタナティブ感。今年のベスト1はこの映画でいいと思ってます。

Text:ayako nakamura



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『君とボクの虹色の世界』
2006年4月8日より渋谷シネ・アミューズにて公開
(2005年/アメリカ/90分/配給:ハピネット・ピクチャーズ)

CAST&CREW:
監督・脚本・主演:ミランダ・ジュライ
出演:ジョン・ホークス、マイルズ・トンプソン、ブランドン・ラトクリフ、カーリー・ウェスターマンほか

REVIEWER:
梶浦秀麿
ayako nakamura

INTERNAL LINK:
特集『君とボクの虹色の世界』
(ミランダ・ジュライ来日インタビューなど )

EXTERNAL LINK:
『君とボクの虹色の世界』公式サイト
ミランダ・ジュライBLOG