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『明りを灯す人』SVET-AKE

たったひとつの明りが灯ることのしあわせ

広大な草原に囲まれたキルギスの小さな村。なにかあれば自転車でかけつける電気工は、村人たちに“明り屋さん”と慕われている。裕福ではない村人のためには電気メーターを細工し無料で使えるようにしてあげるなど、村人たちのことを思うこの純朴な男の夢は、風車の発電で村に明りを灯すこと。日頃から自作の風車の整備に励んでいる。もうひとつの夢は息子を授かること。しかし、国の政治的・経済的問題はこの平穏な村にも変化をもたらそうとしていた…。

自伝的3部作から9年ぶりとなる本作で、アクタン・アリム・クバト監督は、ソ連から独立後20年を経た現在も政治・経済が不安定で、多くの人々が厳しい生活を送らざるをえない母国キルギスの人々に対して、温かなメッセージを残そうとしている。

“明り屋さん”と彼の妻の思いやりのある会話や、彼の4人の娘たちの愛くるしさ、電柱を通して交流する少年とのやりとり、親友との悪ふざけや嫉妬。小さな村のささやかなこの物語は、派手な見せ場や劇的な物語の展開があるわけではない。しかし、遊牧民の風習を残す彼らが、時折見せる力強さや美しい表情が、なによりもこの物語をとても豊かなものにしている。素朴でも慎ましくても、歓びや怒り、慕情や嫉妬など豊かな感情を持ち、そして人を思いやりながら生きる、そんな人間味溢れる素晴らしさをしみじみと感じさせてくれる。

とりわけ、監督自ら演じる“明り屋さん”の存在感がとても素晴らしい。言葉よりも、表情や身体が大切なことを物語っている。監督自ら主人公を演じる映画は数多くあるが、その中でも屈指の素晴らしさではないだろうか。

その“明り屋さん”が村人たちのために奔走し、そして「明りを灯そう」とする姿がとても示唆的で心を打つ。たったひとつの電球に明りが灯るだけでもしあわせなんだ、と思わせてくれる。いくつかの解釈の余地を残しつつ、物語が印象的な終幕をむかえるとき、彼の思いは、観る者の心にもなにかを灯してくれるだろう。 “明り屋さん”のようにとても実直で温かい作品だ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2011年10月8日より シアター・イメージフォーラム 他、全国順次ロードショー
(2010年 / キルギス=フランス=ドイツ=イタリア=オランダ / 1:1.85 / ドルビーデジタル / 80分 / 配給:ビターズ・エンド )

監督・脚本・主演:アクタン・アリム・クバト
脚本:タリブ・イブライモフ
撮影:ハッサン・キディラリエフ
後援:在日キルギス共和国大使館
協力:風の旅行社

出演:タアライカン・アバゾバ、アスカット・スライマノフ

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