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『CUT』

いま、映画界、そして観客に一石を投じるメッセージ!

アミール・ナデリ監督が日本を舞台に衝撃的な作品を作り上げた。映画界に対する強烈な想いを込めた一発だ。

映画を熱烈に愛する監督・秀二(西島秀俊)は、自身の次回作を製作することを望みながらも、名作の自主上映会を催したり、街角で映画界の状況を嘆く演説を行っている。「映画は真に娯楽であり、芸術である」と叫ぶ。本当に素晴らしい「映画」が観られなくなってしまった。しかし、そういった映画は作られ続けている。シネコンでかかる<映画>もよいが、どうかそういった「映画」を観に行ってほしい。いま映画界は死んでしまいそうな状況にある、と嘆く。そんななか、兄がヤクザから多額の借金をかかえたまま死んだという知らせをうけ、そのツケを2週間以内に返さないとならない状況に陥る。返済できるあてもない秀二は、殴られ屋をすることで、その返済を遂げようとする。秀二は何度も何度も殴られながらも、数々愛する「映画」を想い浮かべ、監督名と作品名、年号をひたすらつぶやく。小津安二郎、溝口健二、新藤兼人、黒澤明、成瀬巳喜男、ジョン・カサヴェテス、ビクトル・エリセ、ロベール・ブレッソン、フランソワ・トリュフォー、バスター・キートン、ジョン・フォード、フェデリコ・フェリーニ、オーゾン・ウェルズなど…。「映画」の状況が秀二自身に重なり、そして「映画」自身を救うかのように秀二は殴られ続ける。

物語はいたってシンプルだが、フレデリック・ワイズマンも絶賛するように「映画」らしい編集や画面構成、走る/叫ぶ/殴るなどのプリミティブなアクション、ヤクザの事務所のバーで働く陽子(常磐貴子)と俊二の間で揺れる、昔年の日本映画を思わせるような淡い感情の機微の表現などの素晴らしさが際立つ。また、いままでに観たことのない西島秀俊の存在感は圧巻だ。共同脚本に、青山真治。スペシャル・アドバイザーに、黒沢清。出演には、名優・笹野高史、いま数々の映画で怪演をみせるでんでん、映画監督・脚本家としても知られる鈴木卓爾が名を連ねる。

監督は 、“映画が置かれている今の悲惨な状況への反抗でもあります。そして、映画を単なるエンターテインメントにしてしまった人たちから、秀二はパンチを受けることになるのです。若い世代は「単なるエンターテインメント映画」を好みます。彼らの嗜好はビジネス街で決められているのです。この状況には変化が必要です。秀二の行動と本作は現在の映画業界に対する小さな抵抗です。”と語る。

この作品は、「映画」ではなくなってしまった映画。過去の名作から断絶してしまったいまの映画界、そして観客に対する警鐘だ。

ここ数年、東京でもいくつかのいわゆる単館系と呼ばれる映画館が姿を消したことは記憶に新しい。もちろん日本全国で目を向ければその数はさらに増すだろう。一方、大型シネコンは集客を集め、週末には賑わいをみせている。そこで上映される映画はいまでも多く製作され、あまり映画界が逼迫した状況にあるようには見えないかもしれない。映画は毎月のように数多く公開されているから。しかし、劇中で言及されているような「映画」がどれだけ少なくなってしまったか…。それは、絶望的とも言える状況かもしれない。ただ、こういう状況であっても「映画」であろうとする「映画」は作られ、上映されている。インディペンデントであってもそれは存在し、短い上映期間・遅い上映時間であっても、それは確実に上映されている。わたしたちは、それを観ることができる状況を与えられている。日本のインディペンデント映画だってここ最近、見逃せないような素晴らしい作品がたくさんある。素晴らしい名作を上映する名画座もまだまだ存在する。

映画は作られただけでは価値を生み出せない。存在し続けることができない。わたしたちが、素晴らしい映画を見続けるためには、そういった映画を選び、観に行き、チケットを買うことが必要だ。観た人によって、価値が生み出され、作る側はその支払われた価値を“次の”“新しい”映画につなげる。切な話、支払われた料金が、映画を、映画を作るすべての人を支えている。映画を観るわたしたちだって、この状況を作っている。映画界を作っている。

ここでは語り尽くせないほどに、映画に対する多くの想いや背景を考えさせる作品だ。まずは、映画館に足を運ぼう。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

12/17(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
(2011年 / 日本 / カラー / 1:1.85 / 120分 / 企画・製作:東京ストーリー / プロダクション協力:マッチポイント / 制作協力・配給:ビターズ・エンド)


監督・脚本・編集:アミール・ナデリ / 撮影:橋本桂二 / 照明:石田健司 / 録音:小川 武 / サウンドエディター:横山昌吾 / 美術:磯見俊裕 / 特殊メイク:梅沢壮一 / スペシャル・アドバイザー:黒沢 清、市山尚三 / 脚本:アボウ・ファルマン / 共同脚本:青山真治、田澤裕一

出演:西島秀俊、常盤貴子、菅田俊、でんでん、笹野高史

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