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『ゴモラ』GOMORRA

スコセッシが絶賛したネオリアリズモの傑作

『ゴッドファーザー』、『シティ・オブ・ゴッド』など、いままでに裏社会を描いてきた名作は数多くあったが、この映画は、そのどれとも違う。この内容もそうだが、映画そのものもが即物的で、無情で、重苦しい衝撃に満ちている。映画らしいドラマやスペクタクル、道徳的なメッセージはほとんどない。これが現実だと、ただただ突きつけられるだけだ。

ドラッグの売買、武器の密輸入、産業廃棄物の不法投棄などの犯罪行為からファッションブランドの製造への関与、海外不動産への投資などといったビジネスな面まで、イタリアのみならず世界中の裏経済を巧妙に操り、利潤追求を至上とする実在する犯罪組織「カモッラ」。この裏社会を暴いた小説『死都ゴモラ』は2006年に出版されるや世界中にセンセーションを巻き起こした。後に作者のロベルト・サヴィアーノは「カモッラ」から脅迫を受け警察の保護下に置かれている。映画化されたこの『ゴモラ』は、原作の実名表記とは違い、作品そのものはフィクションとされているものの、劇中に起こる惨状の数々は、現実に起こっていることと大差はないらしい。

憧れであった組織の一員となった少年は、友人が敵対する組織に入り、友情の終焉と敵対のはじまりを知る。組織の帳簿係は、組織メンバーの家族や遺族に給料を届ける仕事をしているが、抗争に巻き込まれ敵対する組織へ寝返ることが出来るかどうか悩む。大学を卒業した若者が希望を抱いて就いた仕事は、裏で組織がかかわる壮絶な実態を抱えていた。組織が仕切るオートクチュールの仕立て工場で働く男は、あることがきっかけで他の縫製業者を指導することになるが、裏切りとしての報いが待っていた(このエピソードが導く、ある世界的な名女優が登場するやや皮肉的なシーンが印象的だ)。そして、ブライアン・デパルマの『スカーフェイス』にあこがれ、好き放題に犯罪を繰り返す若者ふたりは組織に目をつけられていた。

この5つのエピソードがときおり交錯しながら淡々と、そして無情に語られる。大人も子供も関係なく犯罪に関わり、残虐な行為もいとわない。それは「生きるため」なのだ。そんな状況をまざまざと観せられ、唖然するしかない。昔ながらの“仁義”などというものはない。利益至上主義でなんでもやる、そんな世界。実録ものをみているような感覚だ。 “ゴモラ”とは旧約聖書に登場する、神に対し多くの罪を犯してきた街をさす。まさに“ゴモラ”である舞台となった街がおそろいほどに退廃的だ。

オープニングとエンディングにおけるテンションの対比もまた凄い。詳しくは是非観て確認していただきたいが、少しだけ書くと、MASSIVE ATACKのロバート・デル・ナジャが作曲したトラックが使用される。美しく重厚なトラックに束の間の安息を期待するが、更なる惨状の到来を予感させていることに気付く。

この映画は、ながらく新しい波を起こすことができなかったイタリア映画界に第61回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞、第21回ヨーロッパ映画賞5部門受賞という快挙をもたらした。そして、マーティン・スコセッシはこの映画を絶賛し公開のための協力を惜しまなかったという。

この『ゴモラ』を観て、“意味ある”なにかを述べることは難しい。現実にこのような残酷な世界があって生きるため犯罪行為もいとわない人々がいる。そういう世界が、あのイタリアという国にあるということを観る/知ることだけが唯一できることかもしれない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2011年10月29日 (土) より、渋谷シアター・イメージフォーラム他、全国順次公開
(2008年 / イタリア / 2時間15分 / 配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム)

監督:マッテオ・ガッローネ / 原作:ロベルト・サヴィアーノ「死都ゴモラ」(河出文庫) / プロデューサー:ドメニコ・プロカッチ

出演:サルヴァトーレ・アブルッツェーゼ、ジャンフェリーチェ・インパラート、トニ・セルヴィッロ、カルミネ・パテルノステル、サルヴァトーレ・カンタルーポ、マルコ・マコール、チーロ・ペトローネ

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