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『サルトルとボーヴォワール 哲学と愛』Les Amants du Flore

時代を変えた哲学と愛のかたち

実存主義を唱えた20世紀を代表する哲学者のジャン=ポール・サルトル。そして、ジェンダー論の基礎を築いたシモーヌ・ド・ボーヴォワール。学生だった頃のソルボンヌ大学でのふたりの出会い。そして、結婚という契約を結ばず、お互いに愛し合いながらも決して束縛をせずに自由であり、他者との恋愛も認め合うという特殊な関係。生涯を通じて結ばれたその関係のなか、お互いに影響を与え合い、やがて世界を変えるような偉大な哲学者をなっていくまでのふたりの半生を描いた本作。

今も多大な影響を残すふたりが築いた哲学、衝撃的ですらあるふたりの関係がどのように生み出されてきたのか。当時、“理想のカップル”と称されたその裏でどのようなことがあったのか、ボーヴォワールの視点から描かれる。

サルトルとの関係に、ときに苦悩しながらも自らの新しい哲学を生み出していくボーヴォワールを『シャネル&ストラヴィンスキー』でココ・シャネルを、『ゲンズブールと女たち』ではジュリエット・グリコを演じた、アナ・ムグラリスが素晴らしく演じている。ボーヴォワールの気品や力強さ、苦悩などを表徴するような数々のファッションもとても見応えがある。

また、劇中に登場する様々な哲学用語や当時の著名人たち、そして多くの哲学や文化が生まれた場所である“カフェ・ド・フロール”、そして劇中に流れるジャズなどから、第二次大戦後の混沌としながらも世界が変わりゆく時代背景を感じることもできる。サルトル、ボーヴォワールが残した示唆に富む言葉の数々にも注目だ。

世界を変えるような哲学を生み出したが、果たしてふたりの愛のかたちはどうだったのだろうか…。是非を問う疑問符ももちろんある。しかし、観ているうちに、彼らふたりの是非を問うのではなく、ふたりの足跡から何を得ることが出来るだろうかという問いに変わっていく。

むしろ、ふたりはお互いにその哲学や思想を生み出すために自己を舞台にし共闘していたように思える。お互いの素晴らしい知性を認め合い、見据える先の高みを目指すからこそ、どんなことがあってもふたりが離れることはなかったのではないだろうか。

サルトルとボーヴォワールの関係性、愛の在り方は、ふたりの共闘が生んだスタイルであって、わたしたちにとっての目指すべきモデルだということではない。サルトルの実存主義をあらわす「実存は本質に先立つ」という言葉や、ボーヴォワールが女性としての社会通念や偏見と闘ってきたことからも要約されるように、わたしたちは何かに捉われるとなく、(もちろん、ふたりの生き方からさえ)「自由で主体的な生き方」を築くことができる。そう思わせてくれる。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2011年11月下旬より、ユーロスペースほかにて公開
(2006年 / フランス / 105分 / 配給:スターサンズ)

監督:イラン・デュラン=コーエン / 脚本:シャンタル・ド・リュデール、エヴリール・ピジェ / 撮影クリストフ・グライヨ

出演:アナ・ムグラリス、ロラン・ドイチェ、カル・ウェーバー

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