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『人生はビギナーズ』Beginners

いつだって、新たな一歩を踏み出すことができる!人生に希望を与えてくれる、いい映画

大好きなクリエイターのひとりであるマイク・ミルズが私的な長編映画を撮っていると知って、とても楽しみにしていた作品。しかもマイク自身の父親が、75歳の時に「同性愛者として残りの人生を楽しみたい」とカミングアウトしたという実話 (!) を元にしていると聞いたら、この設定だけで面白くない訳がない!と思うでしょう?

それなのに、待ちに待った試写の案内を郵便物の中に見つけたとき、若干の不安が芽生えてしまった。邦題は『人生はビギナーズ』…ですか。しかも、本来かっこいいユアン・マクレガーのぼさっとした様子。なんというか、ちょっと…ださくない?というのが正直な印象。もちろん、これまでの彼の作品群と比べると、という話だ。なぜなら、彼がこれまで手掛けてきたのはX-girlやSupremeのアートワークであったり、ソニック・ユースやAIRのアルバムジャケットのデザインであったり、サラ・ジェシカ・パーカーの起用で話題になったGAPのCMであったり、「かっこいい」とか「お洒落」と言われる種類のものが多く、長編初監督作品『サム・サッカー』のポスターデザインなどもマイク・ミルズらしくて可愛かった (当時の披露試写の案内をいまも大切に持っているほどだ)。

ところが映画を観終わった瞬間、突然腹に落ちた。「そうか、人生はビギナーズなんだ!」と、まるで急に難しかった数式を理解した瞬間みたいに、“わかった”のだ。ちょうど、“アハ体験”みたいに。なんだろう? 人生の普遍的な悩みに対して、気持ちよく答えを与えられたような、この感覚。

そして、映画はまぎれもなく、マイク・ミルズらしい仕上がりになっているのだが、よい意味でメジャー感があって、とても好感がもてる。マイク自身がこの映画を「インディーズ映画」にはしたくなかった、と語っているように、特殊な設定にも関わらず、気持ちのよい「いい映画」になっているのだ。

主人公のオリヴァーを演じるのはユアン・マクレガー。つまりマイク・ミルズ役だ。写真で見たときはピンとこなかったけど、繊細で落ち着いた話し方などはマイクにそっくりで驚かされた。父のハルを演じるのは、クリストファー・プラマー。彼がとてもいい。この映画が、希望のある素敵な映画になっているのは、ハルの魅力に負うところが大きいと思う。オリヴァーのガールフレンド、アナ役にはチャーミングなメラニー・ロラン (どうしてもマイクのパートナーであるミランダ・ジュライがモデルにみえるけど、マイク自身はそれを否定している)。この3人のキャスティングは完璧で、さらにオリヴァーの飼っている犬(おそらくジャック・ラッセル・テリア)もベストキャストだ。

クリストファー・プラマーは本作で、史上最高年齢の82歳でゴールデン・グローブ賞助演男優賞を受賞した。オスカーにもノミネートされているが、ぜひとも受賞してもらい、この「いい映画」をもっとメジャーにしてほしいと願う。


Reviewer : ayako nakamura

ABOUT THIS FILM

2012年2月4日より、新宿バルト9、 TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開
(2010年 / アメリカ / 105分 / 配給:ファントム・フィルム、クロックワークス)

監督・脚本:マイク・ミルズ / 撮影:カスパー・トゥクセン / 衣装:ジェニファー・ジョンソン / 音楽:ロジャー・ネイル、デビッド・プラマー、ブライアン・レイツェル

出演:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン、ゴラン・ビシュニック ほか

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