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『汽車はふたたび故郷へ』Chantrapas

懐かしくて心地いいオタール・イオセリアーニの半自伝的映画

かつてソ連の一共和国であったグルジアで、友人のルカやバルバラとともに豊かな少年時代を過ごす主人公ニコ。やんちゃに過ごしてきた幸福な時代が過ぎ、やがて大人になったニコは映画監督となって作品を作り上げるが検閲や思想統制が上映を妨げ、盗聴が彼の自由を弾圧する。意を決して故郷を離れ、フランスに旅立つニコ。祖父が紹介してくれた身元引受人を訪ね、そして、ふたたび映画の制作に入るがここでもプロデューサーから映画に商業性を求められたりと苦難は絶えない。本作は、ひたすら自分の信じる道を進もうとするニコが辿る旅路の物語だ。

いままでに『素敵な歌と舟はゆく』や『月曜日に乾杯!』『ここに幸あり』といった珠玉の人生の物語を生み出してきたオタール・イオセリアーニ監督が、はじめて自身の半生を投影した本作。デビュー作『四月』(’62)をはじめ何作か故郷グルジアで映画を作るもののいずれも上映禁止の処分にあい、映画を作るため故郷を離れざるをえなかった監督の、そして同じように映画のために故郷から離れていったヴィクトル・ユゴー、フリッツ・ラング、ルネ・クレール、オーソン・ウェルズ、アンドレイ・タルコフスキーやゲオルギー・シェンゲラーなどへの敬意を込めたポートレイトでもある。

これまでの作品と少し違って、内容は監督自身が実際に体験してきたとてもシビアなものだ。観劇中はそれほど感じさせないが、よくよく考えるととても深刻な内容だと思う。表現の自由すらままならない政治的な抑圧下で自分の意志のために故郷をあとにするのだから。それでも、口笛を吹くかのように、軽快に、そして瑞々しく物語は語られていく。

ときにしっかりと地に足の着いた、ときに流麗な流れのなかで客観的な距離感を保ったショットの素晴らしさ。それは監督の人生から滲み出た自由や優しさを持っている。社会風刺のきいたユーモアと愛すべき個性的な登場人物たち。そして、お馴染みとも言える物語の流れとはほとんど関係ないタイミングで登場する、もしくは画面をただただ横切る(これを観ると待ってましたとばかりに、なんだか嬉しくなってしまう)、愛らしい動物たちは、なんだか人間たちのあくせくした、しがらみや些末な問題とは関係ないところで悠然としていて人間中心的主義的な感覚を和らげてくれるよう。また、無造作のようでちゃんと計算された、独特なタイミングで切り替わっていく展開はとてもとても心地いい。イオセリアーニの新しい映画をまたこうして観れることは、内容とは別に、なんだかとてもほっとさせられる。それはきっと、まだまだ映画がゆったりとしていた時代の醍醐味を、イオセリアーニが見せてくれているからかもしれない。例えば、本作に出演しているピエール・エテックスが当時ポスターのイラストを手掛けていたジャック・タチ監督作品やその少し前の“あの時代”の雰囲気。

今作は、監督の故郷グルジアへの望郷の想いが込められている。故郷で、映画のために実体験した苦難があるにも関わらず、それを断罪するのではなくユーモアを交えて描くことの出来るオタール・イオセリアーニの懐の深さ。つらい経験、不条理な社会でもつよく、そして笑って生きることの大切さと哀愁が心を熱くする。

そして、物語の鍵ともなる人魚(?)が導く何とも言えない余韻が気持ち良くて、もう一回観ようかな、もしくはオタール・イオセリアーニ作品をもう一度見直そうかな、なんて思わせてくれる。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2012年2月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
(2010年 / フランス=グルジア / 1:1.85 / ドルビーデジタル / 126分 / 字幕翻訳:寺尾次郎 / 後援:グルジア大使館 / 配給:ビターズエンド)

監督・脚本: オタール・イオセリアーニ
出演: ダト・タリエラシュヴィリ、ビュル・オジェ、ピエール・エテックス

TRAILER