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『工事中』EN CONSTRUCCION

傑作と呼ぶにふさわしい都市と人々への賛歌

『シルビアのいる街で』で日本でも多くの人の心を掴んだスペインの映像作家ホセ・ルイス・ゲリンの2001年のドキュメンタリー作品『工事中』は、まぎれもなく傑作だ。スペインの歴史地区エルバラル。古い集合住宅が立ち並ぶこの街が大規模な都市開発とともに歩む数年間を記録した映像は、都市と人々を豊かに、そして優しく映し出していく。

昔から数多くの人々が暮らす、老朽化した集合住宅。けっして裕福な土地柄ではないエルバラルの街。路上でサッカーをする少年たち、街行く人々、路肩で会話をする老人たちなどの日常。街並の上を旋回する工事用クレーン。街のざわめきと、人々の会話。少しずつ進んでいく街の工事。人々の部屋の窓からは、工事現場やクレーンが見え、工事現場からは人々の生活が見える。ある場面では工事現場で地中を掘り起こしていたところ、おそらくローマ時代のものだと思われる骸骨がでてくる。その現場の周りを取り囲む人々は様々な表情で憶測を交わす。そして現場で働く人々の交わす会話。またあるシーンでは部屋でカップルが将来の悩みを交わす。休日の工事現場でままごとをする子供。工事現場と集合住宅の窓越しに会話する若者は、兵役を終えたらデートしようと約束するが、女の子はそのころにはもう街にいないかもと言う。街中を通り過ぎる人々。ただただ街を眺めているだけなのに、いつの間にか、知っている街のように、あっちで見かけた人を、何日後、何ヶ月後にこっちで見かける。あちこちで物語があり、その小さな物語が観ている者の中で街を作り上げていく。しかし、数年をかけて取り組まれている大規模な都市開発によって、街もそこに住む人々も少しずつ変わっていく。古き良き街並がなくなってゆき、そこにあった雰囲気や人情と呼べるような温かさもどこかに消えていいきそうに感じてしまう。いや、それは幻想で変わらないかもしれない。観ているうちにいつのまにか、その街と人々に愛着すら感じ、少し寂しさすら覚える。

どの場面も一瞬一瞬が素晴らしく、それはそのまま、この作品に登場する街の人々に繋がるのだけれども、見落とせるようなシーンなんてひとつもないように思える。きっと何度見返しても面白いだろう。そんな豊かさがある。それは、このエルバラルの街の素晴らしさということもあるが、そもそもどんな日常ですらそこに目を向ければ人の生活があって、そこに豊かな物語があるのだと感じさせてくれる。それは監督の都市と人々に対する賛歌なのだろう。

これは単純な、いままでのドキュメンタリーとは少し違う。ホセ・ルイス・ゲリンによって作られた「新しい」ドキュメンタリーの地平だ。フィクションである要素すら紛れ込んでいるかもしれないと思わせるほど巧みな構成が展開されるが、この作品の素晴らしさの前にそんなことはどうでも良くなってしまう。また、ここには『シルビアのいる街で』に繋がるものもたくさん見ることができる。

ドキュメンタリーの終盤、あるひとつの物語に収斂していくシーンではなぜか涙がでそうになるほどだった。それは見知らぬ土地の何気ない日常の一幕だったはずなのに。そのときには、そこは私のいなかった日常ではなく、私もいた日常になっていたのかもしれない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2012年6月30日 (土) より、渋谷シアター・イメージフォーラム、ホセ・ルイス・ゲリン 映画祭にて特集上映

(2001年 / スペイン / 133分 / 35mm)

監督:ホセ・ルイス・ゲリン

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