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『ふがいない僕は空を見た』

生きることの「ふがいなさ」と「かえがえのなさ」

原作は、第24回山本周五郎賞を受賞するなど話題をさらい、各方面からの評価も高い、窪美澄による同名小説。長編映画は4年ぶりとなるタナダユキ監督による映画化だ。映画化という話になる前に、この小説を読んでいてそのすごさを感じていたが、本作は原作ものに映画化によくあるような懸念はなく、むしろお互いを補完し合うかのような素晴らしさがある。

ある郊外の街。高校生の卓巳は、友達に連れられて行ったイベントで“あんず”と名乗る主婦・里美と出会う。コスプレが趣味の里美は、昼間に自宅へ卓巳を呼び、お互いにコスプレをして情事に耽るようになる。里美はあまり望まない不妊治療を姑から強要されていて、コスプレは里美にとっての現実逃避の手段にもなっている。卓巳の母親は自宅で助産師として働いているが、卓巳の父親は一緒に暮らしていない。卓巳はそんな助産院で生の誕生を身近に見て育った。卓巳の友人・福田は痴呆症の祖母とふたりで団地に貧しく暮らしている。周囲から蔑まされているその団地から脱出するすべとして、福田に勉強を教えるバイト先の先輩・田岡も一筋縄でない経歴を持っている。そして、福田と同じ団地に住む同級生あくつ、卓巳の担任の教師など。みなどこかに複雑なやりきれなさを抱えている。あるとき、卓巳と里美の関係が公にさらされ、それぞれの関係が交錯し軋みはじめる。

原作の巧みなストーリー構成や日本語の表現の豊かさ、年代や考え方、生き方も違う多くの登場人物の思いが交錯する連鎖短編集というスタイルを、原作の良さを損なわずに、映画ならではの語りに紡ぎなおしたのは、前作『俺たちに明日はないッス』から引き続き脚本を担当した向井康介(『マイ・バック・ページ』『松ヶ根乱射事件』『リンダリンダリンダ』など)。群像劇という大きな話を巧くまとめ、映画ならではの着地点を生み出したところも素晴らしい。原作を既に読んでいる方も納得できる内容だし、もちろん映画を観賞後に原作に触れても、損なわれるものはないだろう仕上がりだ。

そして、なによりもこの作品の「物語を描くこと」への真摯な姿勢が素晴らしく、それがこの作品に大きなチカラを与えている。原作は、生きることの重苦しさ、どうしようもなさ、残酷さ、そして性的な描写だけでなく妊娠や出産などを真正面から赤裸々に言葉で描いている。原作にはだからこその良さがあるのだが、それが映像となったときに存在するある種の表現としてのハードルのようなものはいろいろな意味で言葉以上に高いはずだ。それでも、例えそれが結果<R-18>ということになろうとも、臆することなく描ききるその気概がこの作品にしっかりとした強度と物語としてのリアリティを与え、だからこの複雑な物語にも素直に納得させてくれる。奇を衒ったり、大袈裟になったりすることなく、登場人物たちをじっと見つめて、その生々しさを捉えつづける。脚本もさることながら、出演する俳優陣の演技、苦悩する表情の素晴らしさ、それらを捉える映像(とくに校庭でチラシが撒かれるシーンの美しさと残酷さ)、そしてそれらをまとめあげて作品に昇華させた監督の手腕など、全体から感じるそのすごみはどこか圧倒的ですり、そして温かくもある。

原作のなかで物語を形作っていた言葉と、ときに言葉をも越えて雄弁に語られる映像が見事に補い合い、ときに言葉に、ときに映像にはっとさせられる。忘れられないような言葉や映像がいつまでも残る。

この作品を観て思ったのは、もちろんケースは違えども、そもそも人間は不完全で「ふがいない」生き物だということ。浄化されていく社会、ネットワークで相互に干渉し合うような関係性の中で、どこか“善き人”でなくちゃいけない、と迫られているような雰囲気の中で(もちろんそれはいけないこではないかもしれないが)、社会や自らの関係性に対して善くありたくても、自分の中のちっぽけな自我や欲望に振り回され、右往左往して生きている。夜な夜な悩み、いつのまにか何かに流されて行動している。自分ことで精一杯だったりするし、ときに意に反したことだってしてしまう。この作品に、そのことへの肯定があるわけではないし、なにか解決法が示されているわけではないが、そのやっかいさを抱えてもなお“生きている”このかけがいのなさのようなものがそっと残る。

もちろん、タナダユキ監督がインタビューで語ったように、観客それぞれが感じたことをそのまま受け取りそれを作品とすればいいのだと思う。この作品は、さまざまな感情を受け止める、「生」の温かみのような懐の深さがある。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

11月17日(土)テアトル新宿他全国ロードショー
(2012年 / 141分 / 日本 / color / 1:1.85 / DIGITAL / R-18)

監督:タナダユキ
原作:窪美澄『ふがいない僕は空を見た』(新潮社刊)
脚本:向井康介
音楽:かみむら周平
出演:永山絢斗、田畑智子、窪田正孝、小篠恵奈、田中美晴、三浦貴大、銀粉蝶、梶原阿貴、吉田羊、藤原よしこ、山中崇、山本浩司、原田美枝子

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