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『少年と自転車』LE GAMIN AU VELO

軽やかで暖かいダルデンヌ監督の新たな傑作

この映画は、以前に監督が日本で聞いたという話をもとに生まれた。

児童養護施設で暮らす少年シリルは、施設に自分を預けた父親がいつか迎えにくると信じて待ち続けている。そして、いつか再び一緒に暮らすことを願っている。あるとき、美容室を営むサマンサと出会い、週末だけ里親になってほしいと頼む(平日は施設で過ごし、週末は里親のもとを訪れるというもの)。次第にサマンサと時間をともにするようになり、かつて父親に買ってもらった大切な自転車も戻ってきた。しかし、ようやく探し出した父親の態度はすげない。シリルは、自分のことや街で出会う少年たちとの関わり、そして唯一頼ることができるサマンサとの交流を通して、そしてサマンサは、シリルのために恋人との間に軋轢を生んでしまうが、さまざまな問題もかかえるシリルを受け止めつづけることで、お互いを信じ合い、心を通わせていく。

ダルデンヌ監督らしい、けっして飾りたてたり、煽り立てることをしない静かな眼差しでの捉え方がいつものことながら素晴らしい。苦難を抱える彼らと彼らの贖罪は、とても現代的でもあるし、とても普遍的な人間のもつ真実でもあるように思える。

カンヌでは「主演男優候補」とまで目されたトマ・ドレ演じるシリルが本当に素晴らしく、映画史に残る子どもを主演にした映画のひとつに加えてもいいほどだ。繊細で射るようなまなざしとその奥に幾層にも隠されている感情がひしひしと伝わってくる。また、シリルがサマンサから受け取った携帯電話のベル、ふたりでとる食事、シリルがひねる蛇口、閉ざされた扉とシリルが乗り越えようとする壁など…、表情や仕草、何気ない描写から物語の真実が伝わるのもダルデンヌの真骨頂のひとつだろう。ひとつひとつ見逃せないほど。http://ec2.images-amazon.com/images/I/41zdrkbC6mL._SL500_AA300_.jpg

なかでもシリルが幾度となく自転車に乗るシーンはいつまでも心に残りそうだ。そのどれもが、それぞれ違う表情をみせ、切なさや暖かさ、力強さを湛えている。シリルがサマンサとともに自転車で並走するシーンの美しさや暖かさは、いままでのダルデンヌ作品にはなかったほどで、胸が震えた。シリルは、父親の思い出の詰まった自転車で、ときにひとり、ときにサマンサと様々な想いとともに街を駆ける。そして、ダルデンヌ作品らしい物語の幕の閉じ方も素晴らしい。観る者に、その後のシリルを予感させてくれる。そして、そこにある幸福な時間を想像せざるをえない。

もうひとつ今作で大きく変わったダルデンヌ作品の特徴は、劇中に音楽が使われていること。エンディングに使用されるベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」への序章ともいえるその旋律は、シリルが苦しみに対峙したとき、寄り添うように流れる。

『息子のまなざし』や『ある子供』、『ロルナの祈り』も本当に素晴らしかったが、いままでとはまた少し違ったダルデンヌ監督の軽やかで暖かい傑作だ。

第64回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

3/31(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

(2011/ベルギー=フランス=イタリア/87分/カラー/1:1.85/ドルビーSRD)

監督・脚本:ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:セシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレ、ジェレミー・レニエ、ファブリツィオ・ロンジョーネ、オリヴィエ・グルメ

エンディング曲:ベートーヴェン ピアノ協奏曲「皇帝」(アルフレッド・ブレンデル+ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団)

字幕翻訳:松岡葉子
提供:ビターズ・エンド 角川書店 dongyu WOWOW  配給:ビターズ・エンド

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