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『さあ帰ろう、ペダルをこいで』THE WORLD IS BIG AND SALVATION LURKS AROUND THE CORNER

ブルガリアから生まれた珠玉のロードムービー

1983年、共産党政権下のブルガリア。時代に翻弄され、苦難から逃れるために、祖父祖母を残しドイツへと亡命を試みるアレックス一家。25年後、交通事故によって記憶を失った孫のアレックスのもとに、ブルガリアからやってきたバッグギャモンの名手の祖父バイ・ダン。過去と現在が交錯しながら物語は語られる。失われたものを取り戻すための祖父と孫のブルガリアへの旅。手段は、タンデム自転車!ユーモアあり、涙あり、そして心があたたまる珠玉のロードムービーだ。

しかも、祖父のバイ・ダンを演じるのは、エミール・クストリッツァ監督作品の常連で『パパは、出張中!』『アンダーグラウンド』『黒猫白猫』や、その他、数多くの名作に出演する名優ミキ・マノイロヴィッチ!もう、これだけで「観る価値あり」としてしまえるくらいだけども、内容も素晴らしい仕上がり。

物語はとてもシンプルだから、どんな人でも素直に楽しめるだろう。でも、そこには奥深いテーマと巧みなストーリーテリングが添えられていて、いろいろな想いを呼び起こしてくれる。

この作品では、様々な要素が描かれていく。それは相反するときもあるし、そして併存する。祖父バイ・ダンと孫アレックスは、はじめ対立する関係だったが、タンデム自転車での旅を通して、ともに記憶と時間を共有する関係になっていく。アレックスの過去と現在も喪失と獲得の関係のなかで揺れ動く。一期一会で出会う人々、再び巡り会う人々。
バッグギャモン というゲームを通じて生まれる対立やつながり。人生のなかで出会う、とき立ち向かわなくてはいけない様々なこと、それらをどう克服していくのか、そのひとつひとつ。

また、“過去”と“現在”が互いにオーバーラップする手法が、とても効果的に扱われている。しかし、それは最後にどんでん返しがあったりするような、奇を衒うような“演出上でのトリック”なのではなく、とても自然で、アレックスが過去と現在を取り戻す一連の体験を私たちにも追体験させてくれる、とても素晴らしい要素として添えられている。

祖父バイ・ダンが得意とし、アレックスとの心の交流のきっかけのひとつにもなる、物語の大きな要素でもあるバックギャモン。サイコロを振って進める世界最古のボードゲームのひとつで、バイ・ダンは、「人生はサイコロと同じ。どんな目が出るか、それは時の運と、自分の才覚次第だ」と語る。このメッセージの真意は、この作品を観ると、とてもよくわかる。

バッグギャモン、家族、旅、人生、恋愛、時間などなど、それぞれが素晴らしい役割を果たしている。一見、シンプルな物語だけども、思い返してみると非常にたくさんのことが“丁寧に”詰め込まれている。

そして、もうひとつ。この作品を観て感じたのは、自分が自分以外の観客と同じ時間を共有しているような感覚を覚えたこと。同じシーンで心震わせ、感動しているような雰囲気を感じていたら、あるとても重要なシーンでは同時にあたたかい笑いが起きた。観ている多くの人たちが、同じ想いを持ち、物語を追体験していたのだろう。それは、とても素晴らしいあと味を残してくれた。

東欧諸国は歴史的にもツラい背景をもち、心に深い哀愁を抱えている。しかし、バイ・ダンや劇中でのバルカン音楽が示すように、それをも乗り越える飛び抜けた陽気さもっている。その力強さ、豊かさがこの作品には溢れている。

そして、やっぱりミキ・マノイロヴィッチは、素晴らしかった!


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

5/12(土)よりシネマート新宿、5/19(土)よりシネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー!

(2008年 / ブルガリア=ドイツ=スロベニア=セルビア / 105分 / ブルガリア語・ハンガリー語・スロベニア語・ドイツ語 / カラー / 1:1.85 / ドルビーSRD)


監督: ステファン・コマンダレフ/ 原作: イリヤ・トロヤノフ / 脚本: ステファン・コマンダレフ、デュシャン・ミリチ、ユーリ・ダッチェフ、イリヤ・トロヤノフ

出演: ミキ・マノイロヴィッチ、カルロ・リューベック、フリスト・ムタフチェフ、アナ・パパドプル

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