UNZIP

『聴こえてる、ふりをしただけ』

ただただ、まっすぐに見つめてあげること

物語は、主人公のサチが不慮の事故で母親を亡くしたところからはじまる。父親とふたり残された家、そして学校での生活を再開させるサチ。学校の先生や周囲の大人が「お母さんは見守っていてくれる」と慰めてくれるのだが、枯れてしまった庭先の花や部屋に積もるほこりを見つめるたびに、サチは、行き場のない想いを募らせ、心を閉ざしていく。そんななか、“おばけ”を怖がる転校生がやって来る。花に詳しく、お互いに“見えないもの”に想いを寄せる二人はやがて仲良くなるのだが…。

この作品の素晴らしさは、どうしても大人目線の救いや助けが物語に入り込んでしまいそうなところを、物語そのものをサチひとりに託しているところだろう。そのため、(残念ながら)登場する大人たちはあまりサチのチカラになってあげられないが、だからこそ物語=世界がサチの手によって、力強く少しずつ再生されていく。枯れていく庭先の花々と校庭で逞しく育つ花々、部屋の片隅に積もる埃、真夜中の合わせ鏡などのサチが見る世界、大人たちを見て自ら現状を立て直そうとする頼もしさ、見えないものを信じるけなげさ、友達関係の子供らしい残酷さなど、サチが生きる世界。どれもが11歳のサチのリアルになっていて、わたしたちはそれに触れることができる。そして、それらが感情が染み出るようなとても映画らしい素晴らしいカットで収められている。

大人の感情や都合なく、ただただ、まっすぐに見つめてあげること。現役の看護士であり二児の母親でもある今泉かおり監督にとって、この作品を作ることは、そうやって子供を見つめることと同義だったのだと思う。だからこそ、この作品が、ベルリン国際映画祭で、子供たちが賞を選出する「ジェネレーションK プラス」部門の“子ども審査員特別賞”を受賞しているのだろう。子供たちもに共感され、子供たちに“選ばれた”作品なのだ。

大人にはなかなか見えない、気づけない世界がある。言い換えれば、大人になることで、見えなくまってしまった世界。大人の世界が、いつのまにか子供の世界を裏切り、覆してしまっていることがある。そういうことにも気づかされる。

サチは少しずつ大人になっていく。いま見えている世界を見つめ直し、そこに少しなにかを置いていき、先に進む。そうやって自分の世界を少し更新していく。大人になるとはそういうことで、少し寂しいことでもあるようにも見えるけれど、それも生きるという成長の過程なのかもしれない。この作品の素晴らしさは、その喪失と獲得の過程をちゃんとしたまなざしで見つめてあげているところ。私たちは、11歳に戻りサチとともに獲得までの時を過ごす。そこには忘れていたことや今あらためて気づくことがある。大人にも子供にも是非観てもらいたい作品だ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2012年8月11日(土)より渋谷アップリンクほか、全国順次公開
(2012/日本/99分/16:9/カラー)

監督・脚本・編集:今泉 かおり/撮影:岩永洋/録音:根本飛鳥、宋晋瑞/照明応援:倉本光佑、長田青海/音楽:前村晴奈

出演:野中はな、郷田芽瑠、杉木隆幸、越中亜希、矢島康美、唐戸優香里

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