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『ル・アーヴルの靴みがき』Le Havre

いつものカウリスマキ節でいつも以上に幸せな、カウリスマキの人間賛歌

『街のあかり』以来5年ぶりのアキ・カウリスマキ監督の長編映画。いつも通りのカウリスマキらしさに加えて、いつも以上に温かい。上映後は幸福感に包まれて「いい映画だったなぁ」と心から思えた素敵な作品。

舞台はノルマンディー地方の港町ル・アーヴル。かつてパリでボヘミアンな生活を送っていたもと芸術家のマルセル(アンドレ・ウィルム)は、いまはル・アーヴルの街角で靴磨きをしている。献身的な妻(カティ・オウティネン)と愛犬の待つ家に帰り、近所の酒場で食前酒を一杯飲むのが常だ。つましい暮らしながらも「もっとマシな仕事もあるが、靴みがきと羊飼いが一番神に近い」と言い、パリでの暮らしでは感じることのできなかった幸せを感じていた。そんなある日、妻が病に倒れて入院。入れ替わるように、アフリカから不法入国した難民の少年が転がり込んでくる。マルセルは、彼を警察からかくまい、なんとか母親のいるロンドンまで届けようと、ル・アーブルの裏通りに暮らす気のいい人々を巻き込んで奔走する…というお話。

カウリスマキ監督の作品に共通することだが、まずキャラクターがいい。妻役のカティ・オウティネンをはじめ、カウリスマキ作品でお馴染みのキャストはもちろん、『画家と庭師とカンパーニュ』のジャン=ピエール・ダルッサン演じる警視がとてもいい味を出していて、彼が裏通りの酒場に現れるシーンなんて、最高に可笑しい。台詞は多くないが、それを補うように小物などが効いていて(この時はパイナップルなのだが)、真面目なシチュエーションなのにじわじわと湧いて来る笑い。この独特のカウリスマキ節、好きな人には堪らないだろう。逆に彼特有の薄暗くて物憂いムードが苦手だと思っていた人にとっても、比較的観やすい作品だと思う。

カウリスマキ監督は「映画は一日、一生懸命働いた人がその日の終わりにリラックスして楽しむ為に見るエンタテイメントだ。」と言っているそう。一日の終わりに『ル・アーヴルの靴みがき』を観たら、いつもよりも少し幸せな朝が迎えられそうだ。


Reviewer : ayako nakamura

ABOUT THIS FILM

2012年4月28日(土)ユーロスペースほかにて公開
( 2011年 / フィンランド・フランス・ドイツ合作映画 / 93分 / 配給:ユーロスペース )

監督・脚本・プロデューサー:アキ・カウリスマキ

出演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン・ミゲル、ジャン=ピエール・レオ

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