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『モバイルハウスのつくりかた』

いま最も注目される男、坂口恭平の序章

話が前後するが、“いま”の坂口恭平の話から…。2012年5月に坂口恭平は一冊の本を刊行した。『独立国家のつくりかた』。いまの政府や国の在り方、生活そのものに対して不平・不満があるのなら、自らの手で“独立国家”を作ってしまえばいい。震災以降、自ら熊本に新政府を設立し、初代内閣総理大臣に就任した男・坂口恭平。別に決して左寄りやアナーキズム的な危険な思想、国を打倒するぞ、ということでなく、私たちはいままで通りの作られたシステムだけで生きていくのではなく、すこし視点を変えるだけで世界はいままでと全く異なり、わたしたちは豊かさを得ることが出来ると謳ったこの書籍は、出版されてから、新聞、ラジオ、テレビなど様々なメディアからも取り上げられ、着々と注目を集めている。そして実際に書店での売り上げも常に上位へランクしている。いつからかどこか捩じれ歪んでしまったこの社会や自身の生活、いつのまにかシステムのなかに浸かってしまっている私たちの視界を広げてくれると注目を集める。この本に書かれているその哲学、思想、そして(著者の言葉を借りるなら)ポエジーの根底には、彼が長年、研究し、寄り添い、教えを請いてきた路上生活のエキスパートたちがいる。システムという枠組みの外で「ゼロ」から自分の生活を作り出てきた人たちだ。

そして、この『モハイルハウスのつくりかた』は、その「いま」の坂口恭平に至るまでの序章となるドキュメンタリーだ。

早稲田の建築学科を出た坂口恭平は、建築を建てるということ自体に疑問を抱き始める。土地も建物も余っているのになぜ生活を窮するほどのローンを組み、我が家を持たないといけないのか。建築とはなにか、都市とはなにか、そう考え「建てない」建築家となった坂口恭平は、都市の片隅で生活する路上生活者と出会う。身の丈に合った居住空間。家賃、敷金、ローン、ゼロ。ほんの少しの材料と太陽光で暮らす人々。堅牢に建てられていないその居住空間は、もし大きな地震が起きても家に潰されることはない、軽いたんこぶが出来るだけだよと、話してくれる路上生活者。彼らへのレポートをもとに『0円生活』『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』などの著書を出版し、2006年には海外での個展もひらいてきた坂口恭平は2010年11月に、彼らからの教えを具体的な「モバイルハウス」というカタチにし始める。動く家、制作費26,000円、ソーラーパネルで電気も確保。駐車場に停められる。師匠と慕う“多摩川のロビンソンクルーソー”とともに、建築家であるはずの彼が、家の建て方から生活の知恵まで教えられ「モバイルハウス」を作りあげる。その様子を観ていると、なにか忘れてしまったもの、いままで与えられることが当たり前だと思ってきてしまったことなど、多くのことに気付く。そして社会そのものの在り方さえ考えさせてくれるはず。坂口恭平のポエジーをほんの少し補うような、さりげなく添えられた、あらかじめ決められた恋人たちへの「calling」という挿入曲もとてもいい。

しかし、このドキュメンタリーは坂口恭平がモバイルハウスで実際に生活を始めた直後の2011年3月の震災にて急転する。そこからが、「いま」の坂口恭平につながる。いま坂口恭平は、建築という枠組みすら越えて、新しい世界/社会を作り始めている。そもそも以前からアカデミックな分野からの注目はあったが、それがいまやパブリックなものになり始めている。とても危うい感じもするが天才というものはそいうものだと思うし、そもそも彼は言葉だけでなく実践してきてみせている。自分だけでなく多くの人々の豊かさを獲得している。いま、そんな姿に目が離せない。坂口恭平という存在を知るために、これは最良の映像作品だ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2012年6月30日 (土) より、渋谷ユーロスペースにてレイトロードショー、以下全国順次公開

渋谷ユーロスペースでは、7/7[土]、8[日]、14[土]、15[日]、16[月・祝]、21[土]、22[日] は休日のモーニングショー(AM9:50~)あり!


(2011年 / 日本 / 98分 / HD)

制作:戸山創作所 / 配給:戸山創作所、スリーピン

監督・撮影・編集:本田孝義 / 整音:米山靖 / 音楽:あらかじめ決められた恋人たちへ「calling」

出演:坂口恭平、鈴木正三、船越ロビンソン、隈研吾、磯辺涼

TRAILER