UNZIP

『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』PINA

ヴィム・ヴェンダースがピナ・バウシュと交わした20年来の約束

ダンスや演劇と言った舞台芸術のみならず様々なシーンに多大な影響を残してきた舞踊家・ピナ・バウシュ。例えば、フェリーニ作品への出演やペドロ・アルモドバル監督の傑作『トーク・トゥ・ハー』では出演と作品が取り上げられ、坂本龍一のコンサートに出演などもし、ピナを敬愛し、影響を受けたアーティストは数えきれない。70〜80年代にダンスに演劇的な要素と取り入れたタンツテアター(ダンスシアター)で一躍世界に躍り出てから、つねに舞台芸術の一翼を担い続け、数多くの傑作を生み出してきた。

この作品は、親友であるヴェンダースとピナの間で交わされていた20年来の約束でもあった。しかし、2009年6月30日にピナ・バウシュが突然この世を去ってしまい、ヴェンダースは、悲しみのあまり撮影を中止する覚悟をしたという。しかし、ピナクルが率いたヴッパタール舞踊団のダンサーたち、そして世界中からの切望の声が撮影を再開させる。生前にピナがこの作品のために選んでくれていたという彼女の代表作「カフェ・ミュラー」「春の祭典」「コンタクトホープ」「フルムーン」を新たに舞台上で3Dを用いて撮影し、さらにカメラとダンサーたちは劇場を飛び出す。そして、3Dという最新技術がこれ以上ない効果を生み出している。よく耳にするようなスクリーンから“とびだす”といったものではなく、“奥行き”や“広がり”を表現するために3D技術が使用されていて、これにより街の中や自然の中で踊るシーンでは、ダンサーと建築物のスケール感、モノレールや自動車の動きとの対比、草木や小川、大地の起伏などで踊ることの躍動感が手に取るよう、生々しく迫る。さらにクレーンを使用した撮影の流れるような視点の動きとダンサーの開放感がそれに拍車をかける。もちろん、実際の舞台上でダンスのショットも素晴らしく、あたかも客席から眺めているかのような感覚をもたらす視点とさらに踏み込み舞台上のダンサーたちをかき分け、もしくは目前で眺めているかのような、けっして普段は観ることの出来ない視点は圧巻だ。カメラすら一緒に踊っているようだ。

触れ合うことの困難さ、心苦しさを描いた「カフェ・ミュラー」。圧倒的な群舞が特徴で、ピナ・バウシュ作品の中で最も公演回数が多い「春の祭典」。ときを同じくして公開される『ピナ・バウシュ 夢の教室』では10代の若者たちが踊る、愛と優しさと苦悩を描いた「コンタクトホーフ」。巨大な岩と降り注ぐ雨という壮大な舞台装置と鋭い音楽のなかで12人のダンサーが踊り、跳ね、そして泳ぐ「フルムーン」。ピナ・バウシュ作品に関しては、書ききれないほどにとてもとても多くのことがありすぎて、簡単なことしか言えないけども、どれも決して明快なものではないけども、観ることで必ず心は揺さぶられるはず。

いまでも、ピナ・バウシュが急逝して約1年後の2011年に、新宿文化センターで行われたヴッパタール舞踊団による追悼公演「私と踊って」の感動は忘れられない。鮮烈であまりにも濃密で言葉では言いつくせいないほどの想いが押し寄せてくる体験は、いまでも心に鮮やかに残っていて、この3D作品でも再びその感じが、カタチを変えて蘇ってきた。

舞台作品を生で観るのとも少し違う、だからと言ってこれまでのドキュメンタリー作品とも違う新しい映像作品。体験するといっても過言ではないと思う。いつまでも観ていたいと感じさせるほど、どの瞬間も素晴らしい。個人的にはとくに「フルムーン」での迫力は鳥肌が立つほどだった。できればもう少し長く観たかったと思うほどだ(いつかディレクターズ・カットのようなカタチで存分に観れることを期待したい)。もちろん、いちばんは生で観たいのだけど。

さらにヴッパタールのダンサーたちのインタビューや、昔の貴重なピナの映像が添えられ、ピナの残したダンスを捉えるのだけでなく、ピナへの、そしてピナからの想いやメッセージにもなっている。ヴェンダースはピナとの20年来の約束を生前には果たせなかったが、こうして今なし得る最高のカタチで届けてくれた。こうして観ていると、なんだかピナ・バウシュがもういないなんてことが信じられなくなってくるほどこの作品は、鮮明に、全く色褪せることなくピナ・バウシュのダンス、言葉、想いが込められている。

ピナ・バウシュ作品は、決してとっつきにくいものではないはずだ。『ピナ・バウシュ 夢の教室』と併せて観ていただければ、きっと心に残るものを見つけられるはず。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2月25日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9他全国順次3D公開
(104分/ドイツ、フランス、イギリス映画/カラー/ヴィスタ/SRD)

監督・脚本・製作:ヴィム・ヴェンダース
振付:ピナ・バウシュ
プロデューサー:ジャン=ピエロ・リンゲル
アート・ディレクター:ペーター・パプスト
芸術コンサルタント:ドミニク・メルシー、ロベルト・シュトゥルム
衣装:マリオン・スィ-トー
舞台・衣裳デザイナー:ロルフ・ボルツィク 
ステレオグラファー:アラン・デローブ
撮影:エレーヌ・ルヴァール
3Dスーパーバイザー:フランソワ・ガルニエ
3Dプロデューサー:エルウィン・M・シュミット
編集:トニ・フロッシュハマー
音楽:トム・ハンレイシュ
キャスト:ピナ・バウシュ、ヴッパタール舞踊団のダンサーたち

提供・配給:ギャガ

TRAILER