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『果てなき路』ROAD TO NOWHERE

モンテ・ヘルマン、21年ぶりの衝撃

いまもなお、熱く語り継がれるロード・ムービーの傑作『断絶』(’71)を生み出したモンテ・ヘルマン。89年を境に長編映画から遠ざかってきた伝説的な映画監督が21年ぶりに還ってきた。

まず、はじめに驚かざるを得ない。いまだに映画というものがこんなにも新鮮な驚きを与えることができるなんてことに。そして、21年ぶりに還ってきたモンテ・ヘルマンの手によるこの作品の瑞々しさに。本編の内容はむしろその逆でどこまでも深く、とらえどころのない感覚で次第に暗い闇のなかに誘い込まれるようなものだが、全編を通して冴えわたるモンテ・ヘルマンのタッチは、いままでとは違う新たな境地をも感じさせてくれる。

将来を嘱望される映画監督であるミッチェル・ヘイヴンは、実際に起きた事件をもとに「ROAD TO NOWHERE」という作品の制作に取りかかる。事件の核心でもあり謎多き主人公・ヴェルマ役の女優を探し、オーディションを行っていくなか、ローマにぴったりの女性、ローレル見つける。さっそくローマに飛んだミッチェルはローレルと出会い、そして、ふたりは一日にして恋に落ちる。クランクイン後、その関係は急速に深まっていくのだが、それとともにローレルはヴェルマそのもののように多くの謎を孕み始め、撮影現場にも次第も暗雲が垂れ込める。

これまでの映画史における謎めいたヒロイン像の系譜をたどるようなヴェルマの美しさもさることながら、モンテ・ヘルマンらしい余計な説明を排した演出に、独特のカットはさすがのひとこと。イングマール・ベルイマンやビクトル・エリセ、『断絶』の《GTO》役だったオーレン・ウォーツに対するオマージュ、同じく『断絶』の《ガール》役ことローリー・バードへの献辞を捧げている。そして、なんとフィルムではなく、Canon 5D Mark-IIで全編デジタル撮影されたという映像は、フィルム・ノワール的な闇や閉塞感を巧く描き出している。いままでに幾度となく使われてきた車、飛行機、銃といった映画的要素の扱いの素晴らしさにも驚かされる。映画制作のプロセスの苦難を描いた作品として、モンテ・ヘルマン自身を投影してるとも言えるかもしれない。

劇中の映画「ROAD TO NOWHERE」とその制作プロセス、ヴェルマとローレル、愛と野心など、本編のなかのいくつもの虚構と現実の境界が次第にぼやけていき(デヴィッド・リンチのあの感じに近いと言えば伝わるだろうか)、まるで出口のない迷宮に迷い込んだような心地よい眩暈に似た感覚すら覚える。その果てに観客はどこでもない(=NOWHERE)場所に連れて行かれることになるだろう。そして、映画が終わったとき、観客は遠い遠い場所まで連れて行かれていたことに気づく。これこそ映画体験だと言わんばかりに…。

その創造性に感嘆せざるを得ない素晴らしい作品だ。この映画も『断絶』のように語り継がれるに違いない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2012年1月14日 (土) より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開
(2011年 / アメリカ映画 / カラー / 121分 / ビスタ / デジタル)

監督:モンテ・ヘルマン / 脚本:スティーヴン・ゲイドス / 製作:メリッサ・ヘルマン、モンテ・ヘルマン、スティーヴン・ゲイドス / 製作総指揮:トーマス・ネルソン、ジューン・ネルソン / 撮影:ジョセフ・M・シヴィット / 音楽:トム・ラッセル / 音楽監修:アナスタシア・ブラウン / 編集:セリーヌ・アメスロン / VFX:ロバート・スコタック / 美術監督:ローリー・ポスト

出演:シャニン・ソサモン、タイ・ルニャン、ウェイロン・ペイン、クリフ・デ・ヤング、ドミニク・スウェイン、ロブ・コラー、ファビオ・テスティ

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