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『私が、生きる肌』THE SKIN I LIVE IN

繰り返される倒錯に眩暈がとまらない問題作

『アタメ』以来、22年ぶりに監督とタッグを組むアントニオ・バンデラスが演じるのは天才的な形成外科医・ロベル。彼は、かつて最愛の妻を非業の死によって失い、自身の研究に没頭する日々を送っていた。それは、先端のバイオ・テクノロジーを駆使し、“監禁”している人物を亡き妻そっくりに創り上げようとする人間の倫理にも背くような禁断の行為。はたして、監禁されている人物はだれなのか。

今作で新たなミューズとして登場したエレナ・アナヤや、『オール・アバウト・マイ・マザー』でウマ・ロッホを演じたマリア・パレデスなどその他の出演陣も美しさや醜悪さを抱えた生き生きとした素晴らしい存在感を発揮している。

美しい女性、交錯する愛の思惑、色彩豊かな映像美など、どれもが“ペドロ・アルドモバル”と称するにふさわしい。なかでも、前作から引き続き、劇中で繰り返される<見る/見られる><監視>というモチーフ。さらにその登場人物たちすら監視するような視点からのカットはとても印象深い。そして、本作の最大のテーマとも言える「肌」。人間そのものを形作るものであり、内と外を分ける境界。ときには心すらも隠すその薄い一枚の境界線がわける運命。慕うために肌をさらすのか裏切るために肌を隠すのか。またその逆か。登場人物たち同士がお互いを、見て、見られ、寄り添い、裏切られていくさまが、いつのまにかそのまま観客にも重なりはじめる。スクリーン一枚の向こう側とこちら側で、観て、観られ、寄り添い、そして裏切られていく。

「肌」を介して、明かされる内実と隠される実態。見入ってしまうような美しさや官能と、思わず目を背けたくなるような暴力や倒錯的な行為。観る者を共感することすら拒むような描写と、それでも観客を引きづり込む物語。

『KIKA』でも素晴らしい独創性をみせてくれた、ジャン=ポール・ゴルチエが衣装を担当。それだけでなくエルメスやプラダ、ディオール、ミウミウなど登場人物が纏うため息も出るようなブランドの数々を観るだけでもすごい。一般論的に、衣服は装飾であってその人物の本当の姿ではない、とも言いたいところだが、この物語は衣服を脱いでさらけ出された「肌」ですら、真実を語らないことがある。

また、美しいピアノや重奏的なストリングスから打ち込み系のスリリングなビートまで、ペドロ・アルモドバルとタッグを組み続けてきたアルベイト・イグレシアスの音楽は今回も素晴らしい。

様々な境界が幾重にも重なり合い、反転する。倒錯につぐ倒錯。観てきたものがいつのまにか裏返っているような感覚に眩暈すら感じてしまう。初期作品にあったような背徳的で狂躁的なテーマ、女性讃歌3部作で描いた美しい深淵な愛の世界、そして前作『抱擁のかけら』での往年のジャンル映画とも呼ばれる名作たちを思い起こさせるようなサスペンス。それらの要素が見事に結実した今作が、衝撃的な問題作なんて、とてもペドロ・アルモドバルらしい。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

5月26日(土)TOHOシネマズシャンテ、シネマライズ他全国ロードショー

(2011年 / スペイン / 120分 / カラー / アメリカンビスタ / ドルビーデジタル)
配給:ブロードメディア・スタジオ

監督:ペドロ・アルモドバル / 脚本:ペドロ・アルモドバル、アグスティン・アルモドバル / 製作:アグスティン・アルモドバル、エステル・ガルシア / 音楽:アルベイト・イグレシアス / 衣装:ジャン=ポール・ゴルチエ

出演:アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリア・パレデス

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