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『タンタンと私』Tintin et Moi

“タンタン”の作者エルジェに迫るドキュメンタリー

老若男女問わず世界中で愛されるタンタン。1929年に生まれて以来ヨーロッパの人びとにとっては幼年期のアイコンであり、子供たちが世界を知る教科書であり、長く広く愛され続けている漫画シリーズだ。今では世界50カ国語以上に翻訳され、2億5千万部以上が販売されている。日本では、まだまだヨーロッパほどではないが、スピルバーグによる『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』も公開され、ますます多くの人びとから愛されはじめたタンタン。そんなタンタンの作者エルジェについて、そして彼がタンタンに込めようとした思いについて知っている人はどのくらいいるだろうか。

本作のベースとなっているのは、1971年に学生によって行われた(しかし、30年以上も公開されることがなかった)、エルジェのインタビュー。決して表立った性格ではなかったエルジェが、若者とならと数日間にわたって、エルジュと学生の間で交わされた貴重な対話。この録音が遂に日の目を見ることになる。このなかでエルジェはとてもリラックスし、心を開き、多くを語っている。録音テープにおさめられた本人の肉声をもとに、作家としてのエルジェ苦悩と彼の生涯、そして作者エルジェの心理をもっとも反映しているとも言われる『タンタンとチベット』を手掛かりにタンタンの裏に隠された様々なストーリーを紐解かれていく。

若い頃のエルジェの思い、宗教観や政治的な思想へ執着から生まれた世間との距離感、そして、第二次世界大戦や苦難な恋愛。決して平坦ではない人生の歩みと向き合い、成長するための創作でもあった「タンタン」。このドキュメンタリーは、長く続いたタンタン・シリーズのなかで、そんなエルジェが幾度も彼の心理を垣間見せてくれていることを教えてくれる。エルジェ自身が撮影されているいくつかの貴重な映像も観ることができるが、その紳士な振る舞いには、そんな苦悩など感じさせない気丈さすら感じる。また、エルジェの数多くの作品を生み出してきた創作の現場や、なんとアンディ・ウォーホルと対話をするシーンも観ることができる。

多くのエンターテイメントや芸術がそうであるように、エルジェ自身も、世界中の人びとに愛され続ける偉大な作品を生み出すその裏で、たくさんの苦悩や葛藤を抱えていたことを、このドキュメンタリーは教えてくれる。そうしてこそ、ようやく見えてくるタンタンの姿、作品に込められた思いがある。スピルバーグが映画化した「タンタンの冒険」は、シリーズのなかでも比較的エンターテイメント性の強い、そして、社会的背景や思想の濃くない作品のため、それほどには“エルジェ”という作家性は現れていないかもしれない。しかし、一方では、とても深い思慮を含んだ作品も同シリーズの中には存在する。これこそ、「タンタン」が世代も国境も越えて愛される所以なのかもしれない。子供たちは、世界や正義感などを、大人たちは世界の複雑さや人間の奥深さを、「タンタン」から教えてもらうことができる。

スピルバーグ版『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』を観て楽しんだ方には、是非観ていただきたい、タンタンの素晴らしさをよりいっそう理解できる作品だ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2012年2月4日より、渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマ、新宿K's cinemaほか全国順次公開
(2003年 / デンマーク、ベルギー、フランス、スイス、スウェーデン / 16:9 / フランス語、英語 / カラー / 75分 / 配給:アップリンク)

監督・脚本:アンダース・オステルガルド(『ビルマVJ』)、プロデューサー:ピーター・ベック、撮影:サイモン・プラム、編集:アンダース・ヴィラードセン

出演:エルジェ(ジョルジュ・レミ)、ヌマ・サドゥール、マイケル・ファー、ハリー・トンプソン、アンディ・ウォーホル、ファニー・ロドウェル、他

TRAILER