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『よみがえりのレシピ』

在来作物と「しあわせの交換」が育む 農業と地域社会の未来

在来作物とは、何世代にもわたって栽培者自身が種苗を管理し受け継がれてきた作物。いま、大量生産や品種改良などの波に押され、その多くが失われてきてしまっている。しかし、山形にその在来作物の在来作物の魅力や尊さ、地域固有の作物を食し受け継ぐことが生む地域社会の豊かさを守ろうとする人々がいる。在来作物に、独自の料理法で光を当てる、”山形イタリアン”<アル・ケッチァーノ>の奥田政行シェフ。焼き畑農法を研究し、奥田シェフとともに活動する江頭宏昌先生。そして、実際に在来作物を育て、受け継いできた農家の人びと。『よみかえりのレシピ』は、その人々をその動きを追ったドキュメタリーだ。

人類学者の中沢新一氏が「この映画はすばらしい目覚めの力を持っている」と称するように、このドキュメンタリーは、さまざまことを“目覚め”させてくれる。それは農業の“これから”だけではなく、地域社会の未来へのヒントですらあると感じた。このドキュメンタリーが感じさせてくれることは、書ききれないほどたくさんある。私は農業に詳しくないので、すこし離れたところからの感想ではなるけれど、このドキュメンタリーと公開に先んじて行われた記者会見を通して感じたことを、ここにふたつ記したい。その“目覚め”の感覚(“よみがえり”の感覚と言ってもよい)は人それぞれかと思うのが、どれも大切なことだと思うので、是非観て感じてもらいたい。

奥田シェフは、在来作物を生産する農家の方々と密接なつながりをもつ。それは家族のようですらある。<アル・ケッチァーノ>で、それら在来作物を調理して提供するだけではなく、たとえば、店の席に空きがあると農家の方々やその家族を招き、料理を無料で振る舞うことがあるという。儲からない在来作物の生産ではあるが、そうやって「お金のかからない社会」を作っているのだという。そして奥田シェフは、それを「しあわせの交換」と呼ぶ。それは料理人と生産者の密接な関係性から生まれた特別なもの。しかし、そこには資本主義社会というものを越えた“つながり”があって、とても小さな範囲ではあるが、その地域社会のなかで、ひとつの経済として機能している。このような支え合いは、むかしは当たり前のことだったのかもしれない。けっして資本主義が終わりだとか、そういう話ではなくて、こうした失われつつある地域社会のつながりが、在来作物を受け継ぐ行為を通して、生まれているということはなんて素敵なことだろう。

また、江頭先生が口にする「感覚の共有」という言葉もとても印象的だ。何世代も受け継がれてきた在以来作物を食し、そして受け継いでいくということは、世代を越えて“同じ味”を共有することができるという。 “味”の共有だけなのではなく、その土地の背景(その土地がどのような場所なのか)や地域社会(作物を通してどのように地域が築かれてきたか)、そして作り手の想い(人がどう自然と向き合ってきたか)などが紐づいているということ。たくさんの情報が、在来作物の種には組み込まれているのだということ。それは、いくら情報技術やソーシャル・メディアが発展しようとできることではない。「共有」は現代を表す言葉だともいえるかもしれないが、このような世代を越えて人と人、人と社会や自然がつながる「共有」こそ、本当に大切な、必要なことなのかもしれないとも思える。

こうしたことを思わせてくれるだけでも在来作物とそれを受け継ぐことがもつ意義はとても大きいと思う。ひとつひとつ丁寧に、愛情すら感じるほどに捉えられた農家の人びとの表情や農業をする姿と自然の景色は、とても美しい。また鮮明に捉えられている風や土、木々や作物が奏でる音。それらを通して、わたしたちは、なにか懐かしいものがよみがえる気配と、新しいものを生みだすことができる期待を感じるに違いない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

10月20日(土)より渋谷・ユーロスペースでロードショー、全国順次公開

(2011年 / 日本 / HD / 95分 / 5.1ch / カラー)
制作・配給:映画「よみがえりのレシピ」制作委員会

出演:江頭 宏昌、奥田 政行、在来作物を守り継ぐ人々
プロデューサー:高橋 卓也 / 監督・編集:渡辺 智史 / 撮影:堀田 泰寛 / 音楽:鈴木 治行 / 整音:石寺 健一

TRAILER