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『アルマジロ』Armadillo

戦争の紛れもない現実を叩きつけるドキュメタリー

これが本物の戦場を体験した者の目だ。

『プライベート・ライアン』『ハート・ロッカー』などの“戦争映画”で感じていたものが生温く、そして、あれはフィクションだったのだと、まざまざと痛感させられた。本作がドキュメンタリーで、編集過程に生まれるある種のいくらかの偏りがあったとしても、ここに映し出されている映像そのものは真実なのだ。戦争という紛れもない現実だと…。

イギリス軍とデンマーク軍が駐在し、平和活動の名のもとに、タリバンに対する偵察活動が行われているアフガニスタンの最前線基地「アルマジロ」。本作は、そこへデンマークから派遣される若い兵士たちを追ったこのドキュメタリーだ。長い任務期間のほとんどが何も起きない偵察活動なのだが、わずか数回の交戦が彼らの精神を変化させていく様がとらえられている。そして、ゲームやフィクションのなかでしか観たことのないような映像が、“リアル”なものとして映し出される。その衝撃は生半可なものではない、覚悟して観る必要がある。

はっきり言ってこれを映してもいいのか、と思わせるような映像すらある。兵士目線で繰り広げられる銃撃戦、爆発、敵の兵士たち、惨劇。目を背けざるをえない残酷な映像もある。しかし、本当の戦争がここにはあるのだ。テレビで報道され、わたしたちが見て知るような戦争の情報は、ある程度規制されていという話はよく聞く話だ。はるか遠くで爆発する街や建物、大地の映像が、時代が進むごとに次第にその対象、その現場に近づきはじめているが、おそらくある程度まできた段階きたところでいろいろな要因でストップがかかっている。しかし、放送されないだけで、もう現実では兵士目線での鮮明な映像すら存在しうるのだ。

本作で使用されているカメラはRed One、CanonEOS5D、Panasonic DVCPROだいう。カメラマンは1カメ、監督が2カメで撮り、二人の兵士たちにヘルメット搭載カメラを装着され撮影されている。銀塩フィルムを追いやり、映画界を変え始めたデジタル技術の進歩の波はここにも及び、鮮明で観たことのないような映像をわたしたちの前に提示する。兵士目線の映像は、見慣れた映画やゲームの画面のようですらあるが、いままでのそれらを生温くしてしまう「現実」の映像。もう、タブーや映すことの出来ない領域はなくなってしまったのかもしれない。

戦争は、彼ら若者たちの精神状態を、違う土地に住む“同じ人間”に銃口を向けことのできるものにする。「彼らがそうした」のではなく「戦争が彼らをそういう精神にしていく」。そう見える。もちろん志願している時点で、彼らにはある程度のイメージがあったのかもしれないが、現地で直面した現実はあきらかに違うはずで、それでも彼らが、同じ人間に銃口を向けることの出来る精神状態になっていくことに、彼ら自身はあまり自覚的ではないように見える。戦地である種の興奮状態になった人間が、闇のなかに落ちていくような、何かを見失っていくような感覚を、彼らに見ることができる。戦争は、リアリティを持たない人間にも、容易に銃を構えさせる切実な恐ろしさを持っていると感じた。

そして、わたしたち日本のことも考えさせられる。これは、けっして他人事ではないのだと。


2010年 カンヌ国際映画祭 批評家週間 グランプリ
2010年 デンマーク・アカデミー賞 ベスト・ドキュメンタリー賞受賞
2010年 デンマーク映画批評家協会賞 ベスト・ドキュメンタリー賞受賞
2010年 ロンドン国際映画祭 ベスト・ドキュメンタリー賞
2010年 リバー・ラン国際映画祭 ベスト・ドキュメンタリー賞受賞
2010年 チューリッヒ映画祭 ベスト・ドキュメンタリー賞受賞
2010年 ヨーロッパ映画賞 ベスト・ドキュメンタリー賞ノミネート
2010年 トロント国際映画祭 ドキュメンタリー部門 公式出品
2011年 山形国際ドキュメンタリー映画祭 インターナショナル・コンペティション部門 公式出品
2012年 国際エミー賞 最優秀編集賞受賞


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2013年1月19日(土)より、渋谷アップリンク、新宿K's cinema、銀座シネパトスほか全国順次公開

監督・脚本:ヤヌス・メッツ / 撮影:ラース・スクリー / 編集:ペア・キルケゴール / プロデューサー:
ロニー・フリチョフ、サラ・ストックマン
製作:フリチョフ・フィルム
(デンマーク/2010/デンマーク語、英語/カラー/HD/105 分)

TRAILER