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『最後のマイ・ウェイ』CLOCLO

「マイ・ウェイ」を作った男の知られざる人生

誰もが聴いたことのあるフランク・シナトラが歌う「マイ・ウェイ」。しかし、フランス人でもない限りこの世紀の名曲を作った男のことを知る人は少ないだろう。もちろん私もその1人だった。しかし、この映画を観てからというもの、ことあるごとに、「マイ・ウェイ」を作った男、クロード・フランソワがフランス語で歌うオリジナルの「いつものように(Comme d’habitude)」が頭の中で鳴っている。

クロード・フランソワは60、70年代にフランスを熱狂させたスーパースターだ。しかし、意外にもその彼の活躍は世界では知られていない。彼の人生を追ったこの物語は、1939年のエジプトからはじまる。裕福な家庭に生まれた彼は、厳格な父と穏やかな母のもと育っていくが、第二次中東戦争の影響で父親が失業し、一家はモナコへ移住する。彼は、一家の家計を支えるため現地の楽団で働きはじめるが、父は彼の仕事を「大道芸人はいらない」と認めてくれなかった。61年、一度も認めてもらうことがないままに彼の父は他界してしまう。失意のなかでも音楽に魅せられていく彼は、楽団で知り合ったダンサーと結婚し、パリへ移る。着々と才能を開花させ、やがて道も開けていくが、私生活は決して平穏なものではなかった。離婚やアイドルのフランス・ギャルとの秘められた交際と破局、そして再婚。女好きな性格や気が短くて神経質で嫉妬深い言動…、波瀾万丈と言ってもいい生活のなかでも、音楽に対する熱意は冷めることがなく、また飽きられることがないように、積極的に様々なジャンルの要素も吸収し、また今でいうマーケティングにも取り組んでいく。当時はまだまだ人種的な格差があるなかであっても、オーティス・レディングに影響を受け白人と一緒に黒人のバックダンサーを起用したのも彼自身によるアイデアだ。彼が生涯抱えていた父への思いとともに、どのようにして音楽に人生を捧げ、39年間という人生を駆け抜け、フランス人にいつまでも愛されるスーパースターになっていたのか。観客はいつのまにか、彼と彼の音楽に魅了されていくだろう。

スーパースターの栄光と苦悩、ショウビズの裏側などのほか、様々なジャンルの音楽、数々のミュージシャンが登場する。ジルベール・ベコー、ジョニー・アリディ、フランス・ギャル、セルジュ・ゲンズブール、オーティス・レディングなど、そしてフランク・シナトラ。エジプトの音楽からはじまり、ポップスからバラード、ソウルにファンクなど、この辺りは音楽好きには堪らないだろう。また当時を再現した素敵なかわいいファッション(とくに女性たちの)や文化も素晴らしい。個人的に注目なのは、クロード・フランソワを演じているのがダルデンヌ兄弟の『イゴールの約束』や『少年と自転車』などにも出演しているジェレミー・レニエだということだ。ともかく、見所満載のエンターテイメントに仕上がっている。

そして、彼の人生を観てあらためて思うことは、音楽の力強さ、素晴らしさだ。音楽は彼自身の人生を大きく動かした。それは、彼が幼少期にエジプトで音楽に触れたときに、すでに端を発している。物語の冒頭、彼が現地の人々にまじり満面の笑みで音を奏でて、ステップを踏んでいた時点で、音楽は彼を大きく突き動かし、その先の人生を導いたと言っても過言ではない。そして、音楽に魅了された彼が、やがてフランスを音楽で熱狂させ、それはやがて「マイ・ウェイ」とつながる。「マイ・ウェイ」は世界中の歌手に歌われ、人々が口ずさみ、愛され、私たちにまで届いた。39歳で夭逝した彼自身が世界の舞台で輝くことはなかったが、彼の音楽は世界に届いていた。私たちは、クロード・フランソワという名を知らなくても、いつの間にか彼の音楽を聴いていたのだ。そして今、こうして物語となって、再び彼自身が音楽とともに世界で輝きはじめている。

必ず「マイ・ウェイ」に対する印象は変わり、クロード・フランソワのことを思い出さずに「マイ・ウェイ」は聴けなくなるだろう。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

7月20日よりBunkamuraル・シネマ他、全国順次ロードショー!

監督:フローラン=エミリオ・シリ
出演:ジェレミー・レニエ、ブノワ・マジメル、モニカ・スカティーニ、サブリナ・セイヴク、アナ・ジラルド、マルク・バルベ

2012年/フランス/149分/カラー/スコープサイズ/ドルビーSR-D

配給:カルチュア・パブリッシャーズ
配給協力・宣伝:角川メディアハウス
宣伝協力:アルシネテラン、ティー・ベーシック
後援:フランス大使館

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