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『危険なプロット』Dans la maison

フラソワ・オゾンが仕掛ける傑作を生み出す巧みなプロット

面白い物語とはどんなものなのか?もちろん、いろいろな考え方があるということは大前提だが、「続き」が読みたい!見たい!と、どうしても思わせる、または、それが自分の代わり隠れた欲望を叶えてくれる、そういった物語はたしかに面白い。それを目の前に差し出されたとき、私たちにとって、その誘惑に抗うことは容易ではない。

小説家を目指していたが夢をあきらめ高校の国語教師をするジェルマンは、ある日、生徒たちが書いた何の面白みもない作文のなかに、ひとつの惹かれる作文を見つける。それは生徒のクロードが、クラスメイトの家庭の中身を赤裸々に、皮肉を交えて綴ったものだった。しかも、その作文は完結しておらず、その後も、その家庭を観察していくことを臭わせて「続く」と終わっていた。教師ジェルマンは、非道徳的な行為だと煩悶しながらも、クロードの才能に惹かれ、「続き」に抗うことができず、彼に小説の書き方を個人指導し、さらに続きを書くように促す…。

物語は、ジェルマンが、クロードの作文を読むことによってクラスメイトの家庭環境を知るところから始まる。次第に作文が回を重ね、クロードがそのクラスメイトの家庭にとけ込んでいくにしたがって、伝聞のように知ってきたことが、やがて覗き見をしているような感覚に変わり、そして、いつのまにかクロード本人となって中産階級の幸せそうな一家とその家を守る美しい母親を目で見ているような感覚に陥る。しかし、はたして、いま見ているのは、クロード本人が実際に体験していることなのか?ジェルマンを飽きさせないためにクロードによって作られた虚構なのか?もしくは、ジェルマンが秘かに抱えている他人の家庭を覗き見るような欲望を叶えさせるために…。そう感じ始めてしまったころには、もう物語の歯車は大きく回り始めている。また、ジェルマンとクロードの関係だけでなく、クロードが観察する中産階級の家庭の情熱と倦怠、ジェルマンの妻が勤める現代アートをあつかうギャラリーでの奇妙な捻れなどもフランソワ・オゾンらしい慧眼によって風刺的に描かれていく。物語は次第にエスカレートしていき、ジェルマンとのクロードの関係性も物語の進行によって次第に変化していく。教師と生徒から始まったふたりの関係は、師弟関係、読者と作者、共犯関係、そしてお互いを牽制し合う間柄にまで発展していき、そして…。

そう、ジェルマンは映画を観ている観客“私たち”なのであり、ジェルマンとクロードと作文の関係は、そのまま観客とフランソワ・オゾンとこの映画の関係に重なる。私たち観客は、ジェルマンとともに、いつのまにかその「続き」を知りたい衝動に捕われてしまうだろう。

古典的なサスペンスの名作のような安定した語りを感じさせながらも、現代性も感じさせる。それだけでなく、いままでの過去作品からも感じられるような、ウェルメイドなメロドラマ的手法やブラックなコメディ、スリラー、現実を写しとるようなシリアスなタッチまで盛り込まれていて、まさに集大成のような素晴しい出来だ。この物語が想像を越える結末をむかえるとき、同時に、物語そのものの魅力と魔力、作者と読者/監督と観客の信頼と共犯関係、また欲望とその裏切りなど、フランソワ・オゾンの創作の手法や秘密も知ることができるかもしれない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

10月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

監督/脚本:フランソワ・オゾン
原作:フアン・マヨルガ「The Boy in the Last Row」
出演:ファブリス・ルキーニ クリスティン・スコット・トーマス エマニュエル・セニエ ドゥニ・メノーシェ エルンスト・ウンハウワー ジャン=フランソワ・バルメール バスティアン・ウゲット

(2012 / フランス / 105分 / ビスタ / 5.1ch / R-15)

配給:キノフィルムズ

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