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『いとしきエブリデイ』EVERYDAY

マイケル・ウィンターボトムが5年の歳月をかけて綴ったある家族の日々

『イン・ディス・ワールド』で第53回ベルリン映画祭金熊賞を受賞し、また、ロンドンの社会の片隅で懸命に生きる人々とその街を切なくも美しく描いた名作『ひかりのまち』を生みだしたマイケル・ウィンターボトム。これまでに数多くの作品を生み出してきた監督が、『ひかりのまち』につづき、音楽をマイケル・ナイマンに、そして、シャーリー・ヘンダーソンとジョン・シムを両親役に、監督が見出した実の4人兄妹をその子供役に起用し、彼らの実際の成長とともに5年間の歳月をかけて、美しい家族の物語を生み出した。

イギリス、ノーフォークの小さな村に住む4人兄妹と母親は、刑務所で服役中の父親の帰りを待ちながら、日々を重ねていく。毎朝シリアルを食べ、学校へ向かう子供たち。母親は、家族を支えるために昼夜とも働きに出る。父親は、塀に囲まれた中で家族を思う。ときに母親は子供たちを連れて、父親の元へ面会に訪れる。そんな何気ない家族の日々を淡々と、しかし暖かなまなざしでとらえていく。

撮影開始時、4人兄妹はそれぞれ8歳、6歳、4歳、3歳。実際の年月と同様に、5年にわたる物語が進むにしたがって、彼らは見る見るうちに成長していく。俳優である両親役のふたりに対して、本当の兄妹であり役者ではない子供たちは、どこまでが演技なのかわからないほどに自然な表情、反応をみせてくれる。ときに微笑ましく、なにより愛おしく思うほど可愛い。だから、ときには胸が痛む。また、実際の子供たちの成長の一方で、父親の頭には白髪が混じりはじめたりと両親が少しずつ年を重ねていく様が、細部に現れていく。そいういった時間の経過は、ひとは世代を繋いでいくのだということを感じさせてくれる。物語というフィクションのなかにリアルな空気を実に巧く取り込んでいて、ドキュメンタリー出身のマイケル・ウィンターボトム監督らしい、そして『ひかりのまち』と対をなすような作品だ。

この家族の5年間という決して短くない年月は、長尺になることなく、テンポよくシンプルに90分という長さにおさめるられている。家族の歴史とも言える様々な出来事のなかで、彼らが生みだす感情を丁寧に抽出し際立たせながらも、大胆に場面を省略して繋いでいく。そのテンポの良さは、日々は着実に(とき無慈悲に)過ぎていくのだということをも感じさせてくれる。家族が苦難に直面しているシーンでも、それが収束する前に大胆にシーンは切り替わり、時間が経過する。しかし、そこにまだ家族がいる。彼らはまた何事もなかったように笑っている。それを観れば、彼らが愛によって、ちゃんと「家族」を保っているのだと分かる。たくさんの感情を内に抱えているかもしれない、また、ぶつかり合うかもしれない。しかし(たとえ距離が離れていても)時間をともに過ごしていくことが大切なのだということを感じさせてくれる。

例えば、美しい夕暮れに暖かさではなく、寂しさを感じることがあるように、ひとは何気ない景色にさえ様々な感情を重ね合わせることがある。5年の歳月をかけて撮影したこの家族の物語は、その長い撮影期間と同様に、映画の中でも長いときが過ぎゆく。そして、その年月のうつろいを表すように、彼らが住むイギリス、ノーフォークの自然の景色が物語の合間に何度も映し出される。その景色はただそこに存在しているだけなのに、美しさやあたたかさだけではなく、ときに寂しさや切なさ、やるせなさといった感情を抱かせる。もちろん、この映画は家族の物語が主軸であるのだけども、それらの景色にすら様々な感情を抱かざるを得ないのは、この物語に、この家族の年月に、とてもたくさんの感情が溢れているからだと思う。それは当たり前のことのようで、とても尊いことのように感じる。この物語を観ていると、「毎日」というのは、しあわせなことだけでなく、辛いことも怒りや苦しみも、たくさんの感情を、少しずつ絶え間なく、積み重ねていくことなのだと思わせてくれるのだ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

11月9日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開

監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:シャーリー・ヘンダーソン、ジョン・シム、ショーン・カーク、ロバート・カーク、カトリーナ・カーク、ステファニー・カーク
脚本:ローレンス・コリアット、マイケル・ウィンターボトム
音楽:マイケル・ナイマン

(2012年/イギリス/英語/90分/カラー/ビスタ/デジタル)

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