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『ジ、エクストリーム、スキヤキ』

青春を過ぎた4人の、ちょっと奇跡のような、特別(エクストリーム)な旅とスキヤキ

10代や20代の頃はむかしのことを振り返っても、それはまだ手の届くところにあるようなそんな感じだった。でも、すこしづつ年齢を重ねるにしたがって、手の届くところにあると思っていた“むかし”は、遥かに遠いところにあるもののようになっていって、簡単には取り出せないところにしまわれたもののようになってしまう。しかも、いろいろなことを忘れていくし、憶えていることも他人と比べてみると違っていたり、間違って思えていたり、なんとも覚束ない。なにかを失ってしまったのかな、なんて思えてくる。

大学を卒業して以来、ずっと無為に過ごしてしまった思った洞口(井浦新)は仕事も辞め、15年ぶりに絶縁状態だった大川(窪塚洋介)と会いにいく。街中を歩き、くだらない会話をしはじめるうちに、いつのまにか昔のように馴染んでいく二人。大川は過去のわだかまりなどなかったように、洞口はあることを隠しながらも、なにかを取り戻そうとするかのように陽気に振る舞う。結局お互いだらだらと日々を送っていた二人は、大川が自作していたブーメランを飛ばしにいくという理由で、海に向かう計画をたてる。大川と同棲している楓(倉科カナ)と洞口の大学時代の恋人だった京子(市川実和子)も巻き込んで、洞口が買ってきたスキヤキ鍋を携えて…。青春を過ぎてしまった4人の、なんでもないようで、ちょっと特別(エクストリーム)な、奇跡のような、旅とスキヤキ。

今作で映画初監督となるのは、劇作家、作家でもある前田司郎。五反田団という劇団を主宰し、演劇「生きてるものはいないのか」では、演劇界の芥川賞と呼ばれる岸田國士戯曲賞を受賞。’12年には石井岳龍監督/染谷将太主演で映画化。作家としては「夏の水の半魚人」で三島由紀夫賞を受賞。また「大木家のたのしい旅行 新婚地獄編」も’11年に映画化。演劇、小説ともにその他多数作品を発表してる。メインの演劇のみならず、多方面で活躍する前田司郎は、よく“脱力系”とも呼ばれる。肩の力の抜けた会話や演出、何気ない日常のような何も起こらなそうなストーリー。ときに不条理な展開も見せたりもするが、そんなイメージと共に緻密な構成や巧みな言葉遣い、ユーモア、ときに人生観を射抜くような鋭い思考を覗かせる。本作も2012年から連載が開始されていた小説が原作になっている。

その原作もとても素晴しいので、是非映画とあわせて読むことをお薦めしたい。言葉や表情の裏に隠れている心理を補完することができるだろうし、また、ベースは同じだが、映画と原作で若干設定や展開が異なっている箇所もある。それは映画化にするための変更などのようなものではなく、むしろ設定や展開の差異が、物語自体の枠を広げ、パラレルなものとしても感じさせる。記憶の曖昧さや「いま」という時間の不確定さを、映画化することによって、さらに奥深く表現しているようにも思える。そういう意味では、原作、映画、どちらも遜色なく楽しめるし、補完し合える関係になっていると言える。どちら素晴しい。

ストーリーはとても王道だ。しかし作品全体を覆う雰囲気がとても素晴しい。青春を過ぎた4人のそれぞれの心の奥底を、決して大袈裟になることなく、格好つけることなく、酸いも甘いも含めて、とても巧みにすくいとって端々で際立たせている。また『ピンポン』以来の共演となる井浦新と窪塚洋介の“男子のくだらない会話”もとても良い。ふたりのぐうたらな会話が、四人で海を目指す段階になると、うねりのように一気にテンションがあがって、さらにくだらなく、思わず吹き出してしまうくらい面白い。前田司郎の真骨頂のひとつでもある。

例えば、途中まで読みかけてそのままになっていた本を、久しぶりに読み返してみると、意外と以前読んだ内容を憶えていて、すっと入っていける。そんな感じに、十数年ぶりに友人に会う前は案外緊張していたのに、実際会ってみると昔のように、途切れていた場所にすっと繋がっているように自然に馴染んでいく…。そんなセリフがある。

覚束なくなってしまった過去は、そのときの彼らに会えば、すっと蘇るだろう。忘れてしまおうと思っていたことだって、なかなか忘れることなんてできない。なら、手の届くところに取り戻して再確認することで前を向いて、またやり直したり、新たに始めたりすることができるかもしれない。それは年齢を重ねれば重ねるほど、特別なこと、奇跡のようなことになっていくのかもしれない。そう思わせてくれる。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2013年11月23日(土)テアトル新宿、ほか全国ロードショー

出演:井浦新、窪塚洋介、市川実和子、倉科カナ、黒田大輔、西田麻耶、内田滋、安倍健太郎/高良健吾(友情出演)、沖田修一(友情出演)
監督・脚本・原作:前田司郎
音楽:岡田徹
エンディング・テーマ:「Cool Dynamo, Right on」ムーンライダース(moonriders records)

(2013年/111分/ビスタサイズ/DCP)

TRAILER