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『天国の門 デジタル修復完全版』HEAVEN'S GATE

映画史上もっとも呪われた問題作が30年以上の時を経て蘇る!

78年の『ディア・ハンター』によってアカデミー賞5部門を受賞したマイケル・チミノ監督は、一躍アメリカ映画を代表する監督となり、続けて80年に満を持して生み出したのが、この『天国の門』だ。19世紀末、ワイオミング州ジョンソン郡で、保守的な牧場主たちは連盟を組み、殺し屋を雇い、粛清と称し増え続ける新移民たちを殺害した。このときに起きたのが〈ジョンソン郡戦争〉。名作『シェーン』でも描かれたこの西部開拓時代の最大に悲劇をもとに、本作はそこに生きる人々の生活と戦い、歴史に翻弄される3人の男女の愛を壮大な物語として描いた。しかし、1000万ドルだった予算は4400万ドルに膨れ上がり、撮影期間も大幅に超過した挙げ句に、当初よりも大幅に切り刻まれた149分の作品として一般公開された本作は、興行的には大惨敗、評価も散々。結果、莫大な赤字を生み、チャップリンやD・W・グリフィスなどによって設立された老舗スタジオをまるまる消滅させた呪われた映画となり、ハリウッドに大きな傷跡を残した。

このエピソードだけ聞くと、作品そのものが闇に葬られ、忘れ去られてしまいそうだが、そんな汚点や酷評に晒されながらも、主にアメリカ以外で本作を再評価する声は着々と高まっいった。そして30年以上の時を経た今、本作はマイケル・チミノ本人の監修によって蘇った。オリジナル・ネガの大半は既に失われてしまっていたものの、三原色に分解された3本のカラー・ネガが現存していたため、デジタル技術を駆使し合成し、修復作業を行い、そしてサウンドトラックも復元。カラー調整および映像と音声の修復はすべて監督のもとで行われ、オリジナルの216分の長さなった。

多分にもれず、もともと私も本作に対する印象はあまり良いものではなかった。あまり鮮明な記憶がなかったと言ったほうが正しいかもしれない。おそらく、ずいぶん前に観たのは短縮された149分の作品だったのだと思う。

しかし、改めてこの『天国の門 デジタル修復完全版』を観た感想は、率直に言って「こんなに観るところの多い面白い作品だったっけ?!」だ。3時間36分という常識的ではない長さなど、全く気にならないくらいに見応えがあり、そして圧倒的に美しい映像や迫力のある往年の‘映画らしい’スクリーンでこそ味わうべきスペクタルに溢れている。主演のクリス・クリストファーソンも良いが、クリストファー・ウォーケン、ジョン・ハートのヒールな存在感や、いまなお輝きを続ける若き日のイザベル・ユペールの瑞々しさと奔放さ、美しさがとても良い。村のローラースケートリンクで人々が戯れるシーンや終盤の戦争シーンなどは、映画史に残ると言っても過言ではない名シーンだ。また、街や村に集まる膨大な人の群れや白煙を吐く汽車、壮大な自然と人間の対比など、決してCGでは感じられないだろう生々しい映像と音響で捉えられている。たしかにハリウッドのスタジを潰してしまうのも納得できる圧巻のスケールではある。また、そこまでしてマイケル・チミノが描いたアメリカの美しさの背後にある闇の歴史に、当時のアメリカ人は酷評せざるをえなかったのではないかとも思える。

とは言っても本作は、未だ評価が分かれるようにマイケル・チミノらしい(?)独特な演出や冗長とも思われそうなシーンなどのある種の不完全さも内包しており、どこかアンビバレンスな雰囲気を醸し出している。それは、マイケル・チミノの作品ということにとどまらず、ハリウッド、さらにはアメリカ史のアンビバレンスをも抱え込んでいるようにすら感じる。

30年以上の時を経てもなお、スクリーンに蘇る映画がどれほどあるのだろう。マイケル・チミノと、本作を蘇らすべく情熱をもって奔走した人々の手によって、本来あるべき姿を取り戻した『天国の門 デジタル修復完全版』を、是非スクリーンで体感していただきたい。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

10月5日(土)より、シネマート新宿、10月26日(土)よりシネマート心斎橋にて公開!

監督・脚本:マイケル・チミノ
出演:クリス・クリストファーソン、クリストファー・ウォーケン、イザベル・ユペール、ジョン・ハート

(1981年/アメリカ/216分/DCP)

TRAILER