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『ホーリー・モーターズ』HOLY MOTORS

レオス・カラックスとドニ・ラヴァンの新たな物語!

まずは、なによりもレオス・カラックス監督の長編作品を13年ぶりに観ることができることが喜ばしい。

『ポンヌフの恋人』での苦節、8年ぶりの『ポーラX』でのセールス的な不調があってからというもの、長編をふたたび観ることができると誰が予測できただろうか。そして、オムニバス映画『TOKYO!』の第2部“メルド”での復活の後に生まれた、この喜ばしい本作は、これまでのレオス・カラックス作品が物語のなかに映画史や実世界からの引用や批評を帯びていたように、レオス・カラックス自身と映画史や現代の世界など、さまざまなものが鮮やかに反映されているように思える。

物語の主人公オスカー(ドニ・ラヴァン)は、ブロンドの運転手セリーヌが運転する白いリムジンで人生を旅している。彼は、大富豪であったり、殺人者であったり、そして『TOKYO!』に登場したメルドであったり、ある女の子のよき父親あったりする。オスカーは、パリの街を徘徊するリムジンの中にはメイク道具を満載し、1日のうちに幾つもの役=人生を演じ/生きている。しかし、そこには彼を撮影するカメラの存在もないし、なぜそのようにしているのかも定かではない。

生きるということは演じるということなのか?人は人生という舞台を何を演じているのか?など様々の疑問を投げかけてくる。この物語は人生そのものの縮図を表しているようでもありならが、映画そのものや演技すること(この作品は「映画」だが、演劇とも通じるところがあるように思える)を見つめている。運転手のセリーヌとリムジンとオスカーは映画の構造そのものを、またはカメラの不在は現代の映画もしくは現代社会を表しているようにも見える。また、監督自身が“ホーリー・モーターズは映画の神聖な原動力”と語るように、リムジンの(ホーリー・)モーターの回転は、デジタルシネマ時代では失われたカメラがフィルムを回転させるモーターを表しているようにも思え、それはフィルムに対するオマージュだとも言える。また、オスカーが駆け抜けるのは様々なジャンルの映画の中だ。様々な表情を魅せるパリの街並やラ・サマリテーヌという閉鎖中のパリデパートの美しさも特筆すべき点だろう。

この物語は数々のイメージを引き出し、数々の言葉を生むだろう。簡単に語り尽くせるような映画ではないと思う。

アレックス三部作と比べると、本作は以前のレオス・カラックスらしさがないと思われるかもしれない。しかし、レオス・カラックスとともに、アレックス三部作を作り上げた盟友でもあるカメラマンのジャン=イヴ・エスコフィエとの別れがあり、この作品がデジタルで撮影された作品(カラックスは“メルド”からデジタルを使い始めている。本作と“メルド”はつながっている物語と言える)ということも示すように、またカラックスの分身でもあったアレックスの恋の物語は終わり、ドニ・ラヴァンは新しい存在=メルドとなった(監督自身も冒頭スクリーンに登場する)。レオス・カラックスは“新しい”物語の世界を獲得したのだと思う。私小説のように内側から“わたし”を語っていた物語は、同じ位置から普遍的な映画や人生そのものを照射する物語へと昇華している。

これはレオス・カラックスとドニ・ラヴァンの映画への素晴らしきカム・バックであり、新たな傑作の誕生のはじまりなのだ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

4月、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー

スタッフ:監督・脚本:レオス・カラックス(Leos Carax)、撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カープ

キャスト:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミッシェル・ピコリ

提供:ユーロスペース、キングレコード
製作:2012年/フランス・ドイツ/フランス語/115分/DCP/カラー
配給:ユーロスペース

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