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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ONLY LOVERS LEFT ALIVE

ジム・ジャームッシュが生んだ世紀を越える吸血鬼のラヴ・ストーリー

ジム・ジャームッシュが7年間温めていた4年ぶりの新作は、彼にしか作れないようなオフビートで、シニカルで、センスに溢れ、美意識と音楽に彩られた、現代に生きる世紀を越えた吸血鬼のラヴ・ストーリーだ。

デトロイトで暮らすアダム(トム・ヒドルストン)はアンダーグラウンドで活躍を続ける伝説的なミュージシャン。その恋人イヴ(ティルダ・スウィントン。素晴しい存在感!)はモロッコで暮らす。何世紀にもわたって恋人同士であり、生き続ける吸血鬼の彼ら。ある晩、イヴが電話をかけてきて、久々にアダムに会いに来ると言う。リュミエール航空に乗ってモロッコから久々にやって来た恋人との再会を果たしたアダムは穏やかな夜を過ごす。ただ、現代は高貴な吸血鬼である彼らにとって住みやすい時代ではなくなっていた。

彼ら吸血鬼は、現代においてどうもどこか居心地の悪そうに暮らしている。アダムとイヴに、夜な夜な人を襲い血を吸うという旧来の“吸血鬼”のイメージはなく、今では人に危害を加えず、病院などから秘密裏な取引で血液を調達するのだ。その姿はなんとも滑稽でありながらもどこか哀しい。21世紀の吸血鬼は人の生き血を吸わない。そもそもアダムとイヴが連絡を取っていたのは、スマートフォンのインターネットテレビ電話なのだ。吸血鬼もテクノロジー機器を使う。21世紀は便利だ。しかし、それが彼らの暮らしを改善してくれている訳ではない。

吸血鬼というのは、ある種の伝統やその他の失われていく物事の象徴なのではないだろうか。彼らが、昔のように自由に跳梁跋扈できずに、端へ端へと追いやられてしまっている状況は、どこか現代社会の問題(情報の氾濫、ネットやSNSなどによって全てが白日のもとに晒され、影であるべき部分がなっていく状況など)を暗に示しているようにも思える。または、映画館のスクリーンという暗闇の場所から離れ、ディスプレイに移りはじめた映画などもそうかもしれない。まさしく、吸血鬼は暗闇の夜にしか生きられないのだ。実際にアダムは(ネットのせいで?)棲み家を容易にファンなどに見つかって、ひやかされる。そんなときにアダムは人間たちを「ゾンビども」と呼ぶ。

また、かつてモーターシティと呼ばれ自動車産業と音楽で栄えた、アダムが暮らすデトロイトは、今では退廃しきっている。夜になるとアダムとイヴは車に乗って、そんな街を愛でるようにドライヴする。昔は世界を代表する車メーカーだったパッカードの工場跡やジャック・ホワイトの生家の訪れる(これはとても現代っぽい)。コンサートや映画の上映がされていた巨大な劇場は、いまでは荒廃してただの駐車場になっているが、その退廃的な美しさは息をのむ。このシーンを観てふと思い返したのはレオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』だ。車というモチーフ。かつては隆盛を極めたが、改装を前に廃墟然としたパリのデパート「ラ・サマリテーヌ」の建物内部が時代の象徴とも受け取れるカタチで映し出される。物語そのものもどこか現代(の社会や映画)に対する憂いを帯びた作品であるところ。また超然とした存在が登場すること。様々な示唆に富む内容など、どちらの作品もどこかで共通した同時代性を内に秘めているのかもしれない。

やがて、イヴの妹のエヴァ(ミア・ワシコウスカ)が彼らの元にやって来ることによって、穏やかだった彼らの暮らしが掻き乱され始める。それをきっかけに更に更に生きづらくなってしまったアダムとイヴは、ついに危機的な状況にまで行き着いてしまう。そんな状況で夜の街を力なく徘徊するときに、彼らが出会うひとつの希望のような出来事。そして、それに触発されたかのように彼らが決断する行動は、シニカルでありながらもどこか胸を打つものがある。

ジャームッシュの映画にとって重要な要素のひとるである音楽は、本作でも素晴しい役割を果たしているし、登場する機材なんかもこだわりがあるようだ。常連のジョン・ハートも健在だし、登場人物の名前などにも様々な背景があったり、ひとつひとつ語り尽くせないほど、多くのジャームッシュによるエッセンスが凝縮されている。そもそも、この映画の吸血鬼とは、ジャームッシュの分身なのではないだろうか。そう考えると本作は、これまでの作品のなかで、最もジャームッシュの内面が雄弁に語られた作品なのではないかと思える。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

12月20日(金)より TOHO シネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマ ほか 全国公開

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート
(2013 年/米・英・独/123 分)
提供:東宝、ロングライド
配給:ロングライド

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