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『ペタル ダンス』

静かに心に残り続ける小さなロードムービー

石川寛監督の作品は、いつも他ではあじわえないような空気がただよう。本作でもそれは変わらない。

学生時代からの友だちのジンコ(宮﨑あおい)と素子(安藤サクラ)は、故郷に戻ったミキ(吹石一恵)が自ら海に飛び込んだという話を聞く。彼女たちは、ひょんなことから出会った原木(忽那汐里)も含め、一緒にミキの故郷である北へ向かうことにする。ミキのために車で北へ向かうジンコや原木もそれぞれ自分の心になかに悩みを抱えながら小さな旅に出る。しばらく会わなくなってしまった人に会いに行く、思い出す、誰かの気持ちをを想像して振る舞う、ということが彼女たちに新しい何かを芽吹かせはじめる。

この作品は、クレジットに照明スタッフの表記がないことからも分かるように(おそらく)全編にわたって自然光のなかで撮影されている。雲がかかった空の淡い色、強い風が吹く屋外とは対照的な建物のなかのまったりした光、雲の隙間からときおり差し込むあたたかな陽光、空と境界線を分つ波打つ海の色など、どの景色もそこにいるかのような、そこで本当に見ているかのような“そのまま”の景色を映し出す。それはいままでの『tokyo.sora』や『好きだ、』よりもますますその度合いを増している。しかし、そのままを写しているのでななく、そこに登場人物がどのように佇むか、その景色をどう切り取るのかが、本当に繊細で美しい。

石川寛監督は独特な演出をする。脚本はあるのだけどもそれを前提として現場ではほとんど即興のようなかたちでの演技を要求する。それは、あたかも花びらをいちまい挟んだくらい透けるように薄い向こう側の演技なのだと思う。いや、もしかしたら表と裏が見え隠れしながら、ひらひらと舞っているような感じなのかもしれない。その様は登場人物たちの心境にも通じる。その演技はとてもはかなくもあるけども、それが現実ではなくフィクションの側にたっているから素晴らしい(現実そのままではドキュメンタリーになってしまうし)。俳優それぞれが“素”なのではなく、フィクションという向こう側だけど、現実側にいちばん近い薄い境界の向こう側でそれぞれの登場人物を立ち上げていくからこそ、なんでもないことも真に迫るような、手触りを感じるような存在感がある。そして、それを行う宮﨑あおい、忽那汐里、安藤サクラ、吹石一恵の演技がとても良い。とりわけ安藤サクラの演技、明るさ、立ち位置がよいアクセントとなって、とてもよかった。

そして、その映像の美しさと俳優の存在感の相性がとても良い。作品のなかの物語から何かメッセージのようなものを受け取るというよりも、そこにある雰囲気や空気といわれるようなものを感じることが、とても心地いい(でも、本作を観るとしばらく会わなくなってしまった人に会いたくなるかもしれない)。その雰囲気や空気といったものは、石川寛監督の作品ならではのものだと思う。ときおり思い出して観たくなるような。

『好きだ、』(2006)から実に7年ぶりとなる本作のはずなのに、もうそんなに時間がたったのか!?と少しおどろくのは、石川寛監督作品の世界がとても鮮明に心に残りやすいからだと思う。たぶんこの作品も強烈にではなくとも観た人のなかに残り続ける作品になると思う。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

4月20日(土)より渋谷シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 

監督・脚本・編集:石川寛
出演:宮﨑あおい、忽那汐里、安藤サクラ、吹石一恵、風間俊介、後藤まりこ、韓英恵、高橋努、野村麻純、安藤政信
音楽:菅野よう子
撮影:長野陽一
配給:ビターズ・エンド

(2013 / 日本 / 90分 / 5.1ch / 16:9)