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『嘆きのピエタ』Pieta

言葉を失わせる衝撃的な結末!キム・ギドクの新たな傑作

すさまじい…。未曾有の体験とは、まさにこのことで、こんな物語はキム・ギドク監督にしか生み出せない。第69回ヴェネチア国際映画祭で、並々ならぬ作品たちをおさえ金獅子賞を受賞したもの納得できる。同コンペ部門にはポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』も出品されていて、こちらも観客を遠い地平まで連れて行ってくれる傑作だったが(レビューはこちら)、『嘆きのピエタ』は、また違った次元でとんでもないところまで感情を持っていき、そして大きく揺さぶる。とにかく、キム・ギドクは、またしても言葉を失わせるような衝撃的な結末を観せてくれた。

親に捨てられ30年間孤独に生きる借金の取り立てを生業とする男ガンドは、高額な利子に対して返済できなくなった債務者たちを無慈悲な暴力によって重傷を負わせ、保険金を巻き上げる。残酷な行為をものともしない彼の前に、ある日、母親だと名乗る女が現れる。もちろん、信じようとしないガンドだが、彼にいつまでも付きまとい、孤独にしたことを謝罪し、母としての愛情を示すその女を次第に受け入れはじめる。そして、ガンドは次第に変化を見せ始める。なぜ、母親を名乗る女は突然に彼の前に現れたのか?慈悲深き母の愛情は、圧倒的な暴力をも屈服させることができるのか —

この作品は単なるバイオレンスや愛を描いているのはなない。この物語は、自分が観ていたものが覆されていくように二転三転する。キム・ギドクの作品は、いつもどこか寓話的とも詩情に満ちた世界とでも言えばいいような雰囲気が漂い、作品世界を変える要素になっているのだが、本作がデジタルで撮影されたということもあってか、今まで以上に生々しく痛烈なシーンが、最後の瞬間、いままで以上に言葉にできないような更なる反転を生む。そこで観客はすべてイチから考え直させられるだろう。自分が観ていたものや感じていたものが、覆され、決して絶対的なものではなかったのだということを。それは物語やそこに含まれるモラルといったことだけではなく、映画はこうあるべきという既成概念に対してすら…。これぞ、まさにキム・ギドク作品の神髄。

また、本作では“金”というキーワードも重要だ。ガンドが取り立てに向かう先にいるのは、明らかに資本経済の犠牲となったような貧しく生きる人々で、彼らは小さな町工場がひしめくスラムのような一帯に住む。それは、現実の社会の負の部分を描いているとも言える。ガンドに母親だという女が、彼に「お金?すべての始まりで終わりよ」と言うように、社会は資本=“金”に支配されているのだとも言える。それは、ある意味で暴力の発現の場であり、直接的な暴力でなくても、社会には様々なかたちの暴力が蔓延しているのかもしれない。そこにあって、愛とはどのように存在するのか…。<ピエタ>とは、十字架から降ろされたキリストを胸に抱く、聖母マリアの像のこと。またイタリア語で「哀しみ」「慈悲」という意味もあると言う。

本作は、わずか10日間で撮影され、また、監督も自らカメラを回したというだけあって、圧倒的な集中力が全編にわたって漲っているように感じる。また、以前と比べるとブレやズームといったところに、カメラワークの変化も感じられる。それが全体を通しての並々ならぬ緊張感を生んでいる一因とも言えるかもしれない。また、その緊迫した画面のなかで立ち振る舞うチョ・ミンス、イ・ジョンジンの演技も素晴らしい。

劇場公開作品としては前作にあたる『アリラン』の際に書いたが(『アリラン』のレビュー)キム・キドクは映画作家として一時、危機的な状況に陥っいた。しかし、この凄まじい傑作をもってして、世界に向けて完全復活を遂げたと言える。誰にも到達できないキム・ギドクだけの世界は健在だ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

6月15日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

(韓国 / 2012 年 / 104分 / カラー / 原題:피에타 / 英題:Pieta)

監督:キム・ギドク
出演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン

提供:キングレコード、クレストインターナショナル
配給:クレストインターナショナル

TRAILER