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『楽園からの旅人』Il villaggio di cartone

『木靴の樹』の巨匠エルマンノ・オルミからの力強く美しいメッセージ

『木靴の樹』の巨匠エルマンノ・オルミ監督が、最後の作品と発表した『ポー川のひかり』から約5年(本作の発表は2011年)。前言を翻してまで私たちに届けようとした“物語”は、そのシンプルな佇まいながら、奥深く、荘厳さで、美しさが滲みで溢れている。

年老いた司祭が長年務めてきた教会が、いま取り壊されようとしていた。老司祭は取り壊しにやって来た解体業者たちに神の愛を説こうとするが、社会はいまや教会を必要としなくなったのだと、その甲斐もむなしくキリストの像も取り外されてしまう。その役割を奪われ悲観にくれる老司祭と光すらを失ったかのように思われた教会のもとに、アフリカからやってきた不法入国者たちが匿ってほしいとやってくる。老司祭は彼らを受け入れはじめる。喪失からの再生…。ここから教会と老司祭、そして、アフリカからの旅人の短くも美しい一幕劇のような物語がはじまる。

イタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督であるがゆえの宗教的問題や移民排斥、低迷する経済のなかで混迷するヨーロッパを隠喩するようなテーマだとも言えるが、決して他人事なのではなく、これは、もっと大きなテーマなのだと言えないだろうか。この物語はキリスト教の精神に根ざしたものであるが、この教会そのものが混迷するわたしたちの社会の縮図とも言えるだろう。信仰が失われていくなかで何を信じるかということ。合理的な考えのもとで、何かを捨てていくこと。他者を排斥すること、人と共存しようとすること。他者の命を尊び、自己を犠牲にすることなど、わたしたちの社会をも照射するテーマがあるはずだ。この物語が、ほとんど教会の中だけで展開されることもその思いを一層強くさせる。その教会のなかには、原題 Il villaggio di cartoneが意味する地小さな“段ボールの村が築かれ、やがて恋が芽生え、命も誕生する。

教会を取り壊しにやってくる解体業者や移民を取り締まる役人たちへの老司祭の言葉や彼がひとりで悲嘆する表情には、心が締めつけれる。その一方、ロウソクの灯火に輝く褐色の肌や少年の澄んだ瞳など教会に集まってきた人々の荘厳さや美しさは、宗教画を観ているようにすら感じる。また冒頭から幾度か「海」のイメージが繰り返される。力強く波が打ち寄せる浜辺、テレビのなかに映し出される海、力強波の音。それは教会にやって来た彼らのルーツであり、わたしたち人類のルーツへの回帰をも感じさせる。さらに劇中には、心に刻みたい素晴らしい箴言が散りばめられている。

ただ、エルマンノ・オルミ監督はこの寓話的な物語を美しさや優しさで安易な決着に留まらせない。現代という社会がもつ闇すらも捉え、私たちの行く末を見詰め、そして問いかけているように思える。それは、エルマンノ・オルミ監督が、前言を翻してまで私たちに届けようとした“メッセージ”なのだ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

8月17日(土)、岩波ホール他全国順次ロードショー

監督・脚本:エルマンノ・オルミ
出演:マイケル・ロンズデール、ルトガー・ハウアー、
アレッサンドロ・アベル、マッシモ・デ・フランコヴィッチ

(2011/87分/イタリア/イタリア語/35mm/カラー/ビスタ/SRD)
配給・宣伝:アルシネテラン

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