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『そして父になる』

世界が注目する是枝裕和監督が「家族」「血のつながり」とは何かを見つめる

デビュー作の『幻の光』以降、その独自なスタイルで国内外から多くの評価を獲得し、また、つねに新作を期待するファンも多い是枝裕和監督の最新作『そして父になる』は、現時点での集大成ともいえる静謐でとても素晴らしい作品だ。

6年間育ててきた息子が、実は出生時に病院で取り違えられていた他人の子だったという衝撃的なスタートラインから、それぞれの家族がお互いに交流しながらどのように答えを見つけていくかを追う物語は、「家族とは」「血のつながりとは」という問いから始まり、「裕福さ」や「他人に対する思いやり」「時間」などさまざまな問いを観る者に投げかける。

いままでも国内の様々な俳優たちが、是枝作品で好演し、また樹木希林をはじめとした常連組も是枝作品らしさを担ってきた。しかし、今回主演をつとめた福山雅治の素晴しさは、いままで是枝作品に登場してきた人物とはまた違った佇まいを持っているところだろう。大手建設会社に勤めるエリートで高層マンションに家族で住む良多という役柄は、厳格な父親像を持ちながらも巧く他者と ―妻や子供とすら― 打ち解けたり、思いやることができない。役柄の横柄で嫌な感じは、同時にとても孤独で見えない壁の向こうにいるよう感じさせ、いままでの是枝作品では観られなかった人物像、距離感をもたらしている。なおかつ精悍な容姿が嫌味にならず、これまでにスクリーンを彩ってきた数多くの名優たちに並ぶ美しい風格すら感じさせる。はずかしながら、実は映画でもテレビでも、あまり観たことがなかったのだが(もちろん作品にもよると思うが)素晴しい俳優なのだということを今さらながら知った。

これまでに是枝作品は、大きく分けて『誰も知らない』のようにドキュメンタリー性の強い作品と『空気人形』のようにフィクション/ドラマ性をもった作品のふたつのスタイルがあったと言えるが、本作はその両方の良さを巧く合わせることに成功しているように思える。物語自体の動かし方は、ドラマ性が強く、対照的なふたつの家族、そして良多自身がどのような答えを見つけようとするのかつよい希求を抱かせる。一方、子供たちや良多以外の登場人物は、ドキュメンタリー的な捉え方でごく自然な家族のような雰囲気を醸し出し、ときにユーモアもって笑わせてくれたりもする。だからこそ福山雅治が演じる良多が際立ってくるのかもしれない。

またそれを可能にしているのが、素晴しい映像なのだとも言える。写真家として活躍を続け、昨今はTVCMなどの映像も多数手掛けている瀧本幹也が初の長編映画で撮影監督をつとめている。いままでの是枝作品のスタイルでもあった手持ちカメラによる映像、人物に寄り添うような視点ではなく、瀧本幹也の写真作品や映像などをご存知の方ならお分かりになると思うが、しっかりと据えられたカメラによって、とても静謐な距離感と構成美をもった映像になっている。それによって、毅然とした良多の佇まいや作品全体を包む静謐さが醸し出されると同時に、いままでとは違った登場人物たちにたいするまなざしが生まれている。

これまで是枝作品は欠かさず観てきてどの作品もとても良かったが、この『そして父になる』は監督自身の思いがとても強く感じられ、そして最も心に響いた作品だと言える。

第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

9月28日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー
9月24日(火)~27(金)全国先行ロードショー

監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、風吹ジュン、國村準、樹木希林、夏八木勲

配給:ギャガ

(121分 / 日本)

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