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『共喰い』

田中慎弥の芥川賞受賞作「共喰い」を青山真治監督が映画化!

昭和という時代の空気ー。一概に言うことはできないが、今の時代に小説や映画などのなかで見るそれはどうしてもノスタルジー、追憶というフィルターによってきれいに清潔に描かれてしまうことが多いように思える。もちろんそういう一面もあるのだが。当たり前のように、現代という時代に合わせて、過激な表現は抑えられ、柔らかくなっていくことが多い。それにつれて、ある一面は失われていく。「共喰い」の作者・田中慎弥という作家は、中上健次や大江健三郎になぞらえられるように、現代的というよりは、現代において“昭和”という時代の奥底にあった血や暴力、性、封建的な共同体、それにともなう闇などを、今という時代に毅然と立ち向かいながら正面から描こうとしている作家と言うことができる。ただ、文学ならまだしも、映画のなかでそれを表現するのは、けっして容易いことではない。

だからこそ、青山真治監督が生んだ『共喰い』と観終えたときは、いまの時代にこのような映画を作ることができるのか!という驚きも感じるとともに、青山監督と脚本の荒井晴彦(79年公開のロマンポルノの傑作の一つ、中上健次の小説「赫髪」を元にした『赫い髪の女』の脚本家でもある)の気概に触れた、いや出演者やこの映画を世に出そうとしたスタッフも含む、すべての制作者の気概に触れたのだと思えた。

ー昭和が終わろうとしていた夏、十七歳の遠馬は暴力的な性癖をもつ父親とその愛人と暮らしていた。その暴力や性を目の当たりにしながら…。戦争によって左手を失った母親は、夫に愛想をつかして遠馬を置いて家を出て魚屋を営みながらも遠くない関係性を保っていた。遠馬は幼なじみの千種とセックスを繰り返すうちに自分にも父親の忌まわしい暴力的な血が流れているのではないかと煩悶しはじめるー。物語の中で主要な舞台となる川や鰻の象徴的な描き方とても良いし、じっとりと濡れたような画面が渦巻くものを感じさせる。そしてなにより、登場人物を演じる出演者たちが本当に素晴しい。難役に体当たりなどという表現以上に、まさに生身の人間として物語のなかに生きている“生々しさ”を感じさせ、ときに息をのみ、鳥肌がたつ。また、さすが青山監督だけあった音楽も良い。

青山監督が「“昭和を知っている自分がこの映画を作っている”といことがはっきり刻印されている気がする」と言うように昭和という時代の“空気”と“映画の在り方”が刻まれている。しかし、そのままなのではなく、映画としての表現に変換されることによって、原作とは別の生々しさが観るものを圧倒させるだろう。また、新たに用意された原作とは違ったエンディングによって昭和が終わるその瞬間の物語は、原作にはなかったその先の時間の広がりと、登場する女性たちのさらなる美しさ、力強さ、したたかさを獲得し、原作の読後感とは、また違った味わいを残してくれる。そういう意味では、昭和がどういう時代だったか、そして平成という現代がどういう時代なのかを描いているとも言えるのかもしれない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

9月7日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー!

出演 菅田将暉、木下美咲、篠原友希子、光石 研/田中裕子

監督 青山真治
原作 田中慎弥「共喰い」(集英社文庫刊)
脚本 荒井晴彦
プロデューサー:甲斐真樹
制作プロダクション スタイルジャム
制作 『共喰い』製作委員会
配給 ビターズ・エンド

2013/102分/カラー/日本/5.1ch/16:9

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