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『ウィ・アンド・アイ』THE WE AND THE I

ミシェル・ゴンドリーが見つめる“私たち”と“私”の青春ドラマ

この物語に出てくるティーンエイジャーじゃなくたって、いつだって私たちは、多くの他人のなかで生きていて、こうありたいとかこう思われたいという理想や願望とはちがう“私”として、いつのまにか生きていたりしている。この人の前の私とあの人の前の“私”は全然違うなんてよくあること。いろいろな私がいるのだ。

NYブロンクスのハイスクールに通う若者たち。学期が終わって意気揚々と帰宅する路線バスの中。一般の客にまで迷惑をかける悪ガキたち、親友とパーティーの計画を練るお高くとまった女の子、読書を続ける寡黙な青年、別れ話をはじめるゲイのカップルなどなど。それぞれが不安や葛藤や悩みなど、いろいろな思いを奥底に秘めてバスに揺られている。誰かに話しかけたり、イタズラしたり、つっかかったり。仲が良かったり、悪かったり、つながってたり、つながってなかったり。でも、ひとりまたひとりと、バスを降りていくにつれ静かになっていく車内で、彼らの関係性や彼ら自身はそれぞれに変化していく。奥底に抱えている本当の自分(?)が顔を覗かせたり…。誰といるとか、誰がいないとか、そういうことがとても重要なのだ。そういった社会の縮図のようなバスの中にあって、みんな、“私たちのなかの私”とか“私のなかの私”とか、たくさんの“私”をもっている。

この作品は、いつものミシェル・ゴンドリー作品とはちょっと違う。とっても真正面な作品で、彼らしいと言われるようなアナログなアイデアが満載な映像だったり、凝ったプロットでわくわくさせたり、幻想的だったり、ビジュアルが胸キュンだったりという要素は驚くほど少ない。しかし、ミシェル・ゴンドリーらしいアップビートな感覚を保ちつつも、バスという狭いの空間のほぼワン・シチュエーションなかで、複雑でたくさんの関係性を展開しながら次第にひとりひとりの人物像を浮かび上がらせる流れ、集団意識と個人の対比など、いままでにはなかった巧さがある。これは監督の実体験を元に、実際のブロンクスの高校生たちに3年間かけてインタビューを繰り返し結実した物語で、出演するのも実際の高校生たちだ。彼らをひとりひとりしっかりと見つめるまなざし、よくある青春映画の下世話な感じではなく、若者たちの熱狂や残酷さ、若者らしい苦悩も丁寧に描いていく姿勢は、他のどのミシェル・ゴンドリー作品よりも真摯さを、そして彼らに対する愛を感じる。

いわゆるミシェル・ゴンドリー的な作品への期待は肩すかしを食らうかもしれないけど、これもまたミシェル・ゴンドリーなのだ。私たちが思っていた/期待していたミシェル・ゴンドリーって誰なのだろう? 直接、作品には関係ないけど、そう思うことは、ある意味、この物語のテーマにも通じているように思える。私たちのなかで“作られたミシェル・ゴンドリー”と“本当のミシェル・ゴンドリー”って?。

最後に。ミシェル・ゴンドリー監督の次回作はもう製作されていてタイトルは『うたかたの日々』(原題:L’écume des Jours) 。ご察知の通り、ボリス・ヴィアンのイマジネーションを溢れる幻想的な青春小説が原作で、いつものミシェル・ゴンドリー節たっぷり!の作品になっているらしい。出演者もロマン・デュリス(『スパニッシュ・アパートメント』)、オマール・シー(『最強のふたり』)、オドレイ・トトゥ(『アメリ』)など仏映画界の豪華メンツ。期待に胸がふくらむばかりだ…。

みんなが好きないわゆるミシェル・ゴンドリー的な作品はちゃんとやって来るから心配はいらない。だから、その前に、この素晴らしい『ウィ・アンド・アイ』を観て、ミシェル・ゴンドリーのもうひとつの側面も感じれば、もっともっと彼の作品の魅力が分かるはず。ミシェル・ゴンドリーのなかには、まだまだ私たちの知らないミシェル・ゴンドリーがたくさんいる。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

4月27日(土)より シアター・イメージフォーラム、シネ・リーブル梅田他全国ロードショー

監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
出演:マイケル・ブロディ、テレサ・リン
2012年/アメリカ/カラー/ビスタ/ドルビーデジタル/103分
原題:THE WE AND THE I
配給:熱帯美術館

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