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『ある過去の行方』THE PAST

物語、演技、映像、そのどれもが上質!愛と家族をめぐる緊張感溢れる人間ドラマ

緻密な物語展開と見事な演技、ほどよく抑制の効いた映像表現、映像の美しさ。それらが観る者を引き込み、濃密な時間を堪能させてくれる。大仰でなくイラン出身のアスガー・ファルハディ監督は、つねに上質な作品を生み出す。前々作『彼女が消えた浜辺』ではベルリン国際映画祭の銀熊賞 (監督賞)を受賞。前作『別離』で第84回アカデミー賞外国語映画賞、ベルリン国際映画祭金熊賞など世界の映画祭で90冠以上を受賞と、今最も注目される映画監督のひとりでもある。これまでイランを舞台に作品を生み出してきたアスガー・ファルハディ監督が、本作ではフランスに舞台に移して新たな物語を生む。

物語のはじまり方がさっそく素晴しい。ある男が、空港に降り立つ、それを女が出迎える。二人は顔を合わせ何事かを伝え合おうとするが、大きなガラスがふたりを遮っているために声が届かない。久々に再会したその男女は雨が降るなか車に駆け込む。そして、女が運転する車のワイパーが雨を掻き分けると、そのガラスに“過去”を意味する映画のタイトルが現れる。観る者にこの後の物語展開と意味を予感をさせるようなこの一連のシークエンス。こういった巧みな映像表現が随所に散らばっていて、言葉にならない空気を観る者に訴えかけてくる。

4年ぶりにフランスに戻って来た男・アーマドを迎えたのは、別れたフランス人の妻・マリー=アンヌ。正式な離婚の手続きをするためにテヘランから戻って来たアーマドだが、久々に家に戻ると、マリー=アンヌが既に新しい恋人サミールと彼の息子と新しい生活をはじめていることを知る。しかし再会した自分の娘たちを含め、彼らの新しい家族にはどこか不穏な空気が漂っている。家の中は雑然と散らかり、長女は母親と対立して家に戻ってこない。新しい家族にとって第三者的な立場であるアーマドだが、なんとか彼女たちの間を取り持とうとする。元夫婦と妻の新しい恋人、子供たち。愛が終わった関係、愛が生まれゆく(はずの)関係、血縁、血のつながらない親子と姉弟たちの関係。複雑に絡み合った関係とそれぞれの思惑が、少しずつ明らかになるに従って、周囲の人々や彼ら仕事関係にまで話は及び、思いもよらない展開へと発展していく。元夫婦の離婚問題という、ある意味ありきたりとも言えるテーマから始まった物語が、それだけにとどまらず様々な人間関係、愛憎、思惑を通り過ぎ、彼らではない人々の関係性に着地する結末には驚かされる。

多くの登場人物たちの心理を、観る者がちゃんと理解(移入)できるよう丁寧に描きながらも、決して物語の流れが滞ることない。家族を描いた人間ドラマでもありながら、その枠だけに収まらない緊張感溢れるサスペンスとしても一級。さらに愛や家族の物語から出発して、見事な手際で複雑に絡み合う糸を淀みなく繋ぎ合わせ、現代の社会問題にまでその矛先は至るのだ。なんて見事な手際だろう!

出演してる俳優陣も素晴しい。マリー=アンヌ役に『アーティスト』(11)での好演も記憶に新しいベレニス・ベジョ。彼女は本作で2013年カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞している。加えて、フランスで今注目の若手演技派俳優であるタハール・ラヒムが、マリー=アンヌの新しい恋人を演じる。

前作、前々作も“別れ”ということに焦点が当てられていた。そこには離婚というきっかけがあり、そのことが静かにやがて大きく引き起こす人々の心理の変化や複雑な関係性や事件を引き起こしていた。ただ、“別れ”と言うのは、離婚ということだけでなく、死や行方不明、心や意識が通じ合わない状況など、さまざま“別れ”を意味しているように思える。そして、本作ではタイトルの通り、登場人物たちがそれぞれの「過去」を相対して、その「過去」と“別れ”る瞬間を捉えようとしているように思える。

とにかく、その完成度の高さを是非堪能してほしい。そして美しいとも儚いとも、苦しいとも形容しうるラストは大きな余韻残すに違いない。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2014年4月19日(土)より Bunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国順次公開

監督・脚本:アスガー・ファルハディ『別離』 
出演:ベレニス・ベジョ『アーティスト』、タハール・ラヒム『預言者』、アリ・モッサファ

配給:ドマ、スターサンズ

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