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『グロリアの青春』GLORIA

思わず快哉を挙げたくなるほどにグロリアの人生の第二章は輝く

結婚、子育て、離婚を経験してキャリアウーマンとしてひとりで生きる58歳の女性・グロリアの第二の人生を描いた物語。ヌードやベッドシーンも辞さず、主人公グロリアを女優パウリーナ・ガルシアが演じる…。そこから思い浮かべた、少しシビアな物語なのかもしれないという印象を、本作は心地よく裏切ってくれた。こんなに軽やかで、痛快で、思わず快哉を挙げたくなるほどの気持ちにさせてくれるなんて!それは、単に楽観的なだけじゃなく、“人生の秋”に差し掛かったある一人の女性をしっかり見つめ描いている。むしろ、この物語のなかで、主人公グロリアが直面する問題はうまくいかないことの方が多い。それでも、エンディングを迎えるころには、すっかりグロリアに魅了され、彼女と共に前に一歩踏み出すような、そんな胸の高鳴りを感じさせてくれる。

ある晩、グロリアは、同じ年代の単身者が集まるダンスホールで、年配のロドルフォと出会う。その場で意気投合したふたりは、そのまま一夜を共にする。その場限りの関係だと割り切っていたグロリアだったが、後日、ロドルフォからデートに誘われ、交際を申し込まれる。離婚も経験し、育てた子供たちもしっかりと独立し、仕事も順調、住まいも悪くない…そんなグロリアは、ひとりでいることを謳歌しているように、車の中ではカーステレオから流れる音楽に合わせて揚々と歌を歌う。グロリアの周りには、彼女の心を表すように音楽が流れている。グロリアにとって、元海軍将校であり、ビジネスの面でも成功しているロドルフォは、新しいパートナー候補としては申し分ないかのように見えた。しかし、ロドルフォは1年前に離婚した妻や成人した娘たちに、今もなお仕送りをつづけ、問題があれば彼女らに呼び出されている始末。グロリアは、その姿に次第に呆れ始め…。

冒頭からエンディングを迎えるまで、グロリアがスクリーンから完全に消え去ってしまうことがない。カメラは、つねにグロリアを追いかける。この物語は、最初から最後まで一貫してグロリアの物語であり、それは恋の行方だけでなく、次第に私たちは58歳のグロリアという女性がどういう人柄なのか、独り身の彼女がどういう恋をするのか、チリの首都サンティアゴという社会のなかでどう生きて、世界をどう見ているのかを感じさせる。例えば、グロリアが、元夫の夫婦や子供たちと集まって食事するシーンでは、自国について考えを交わし合い、また、彼女が街を歩くとき、その背景では若者たちが大きなデモ活動としている。それは、グロリアを演じたパウリーナ・ガルシアさんが来日の際に語っていたように、撮影当時の実際のチリの情勢を表している。それらが密接ではないが、緩やかに物語のなかのグロリアの行動に結びついているのだと感じさせる。若い頃のなりふり構わないような恋や生活じゃない。勢いにまかせた行動をすることがあっても、年を重ねると否が応でも自分の生活や恋によってその先につづくと予測される将来が、社会とは決して無関係ではないし、直接的な影響がないにしても、自分のちょっとした考えは世相に影響されることもある。例えば、ある程度年齢がいけば生活も恋も、不安な経済状況なかでは経済的な余裕や将来的な見通し含めてを考えざると得なかったりしてしまう。当時のチリは「国自体が一歩を踏み出すことによって、未来を変えようとしていた時期」で、「グロリアも同じように自分の内面でいろいろなことが起こり、60代に近づくときに、一番のターニングポイントにいた」「未来に向かって何が起こっているかということが、両方スクリーンの中に表されている」と、ガルシアさんが言うように、単に60代にさしかかったひとりの女性の恋の物語だけなのではなく、ある時代の変化のなかでのある女性の変化を、彼女の暮らす社会を背景にして描いている。

そして、劇中で流れるたくさんの音楽の数々もそう。グロリアの世代のヒット曲からバラード、ボサノバなど。それはダンスホールだったり、カーステレオからだったり家のなかで歌われたり自然にグロリアの生活のなかに溶け込み、ときに彼女を後押しし、慰め、そして観ている私たちをグロリアに少しずつ移入させてくれる。この作品のタイトルでもある82年にローラ・ブラニガンがカバーして大ヒットしたウンベルト・トッツィの「グロリア」はその代表だ。

第63回べルリン国際映画祭銀熊賞・主演女優賞に輝いたパウリーナ・ガルシアの演技は素晴しい。ヌードやベッドシーンに果敢に挑んだからだけではない。グロリアは、性別も年代も越えて、観客を多いに魅了するだろう。そして、劇中で「グロリア」が流れ、グロリアがそれを耳にするとき、思わず快哉を挙げたくなるほどに彼女の人生は再び輝きだす。私たちはそのグロリアの胸の高鳴りを抱えて、「グロリア」を心の中で鳴らしながら、清々しく劇場を後にすることになるはずだ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2014年3月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町にて全国順次公開

出演:パウリーナ・ガルシア/セルヒオ・エルナンデス/マルシアル・タグレ/ディエゴ・フォンテシージャ
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:セバスティアン・レリオ/ゴンサロ・マサ  

2013年/スペイン・チリ合作/スペイン語・英語/109分/シネスコ/カラー/DCP/5.1ch

後援:チリ大使館/セルバンテス文化センター東京

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