UNZIP

『インポート・エクスポート』IMPORT EXPORT

「パラダイス3部作」のウルリヒ・ザイドル監督 '07年の傑作が遂に公開!

雪に覆われた凍てつく景色の中をひとり歩く女性。ウクライナの若いシングルマザーのオルガは、看護士の仕事をしながら幼い子供を養う。一方、オーストリアのウィーンでは、若い男ポールが厳しい肉体訓練に堪え、なんとか警備員の職に就く。経済状況も社会環境も異なる、東欧と西欧のふたつの異なる国に暮らすふたりの現実が、ゆっくりと動き出していく。オルガは、看護士の職で得た給与を受け取りに向かうが、あるべき額の3割しか受給されず、残りは来月だと言い渡される。毎月同じだと、こんな状況では暮らしていけないと嘆くオルガは、子供との生活費を稼ぐために、オンラインセックスの仕事を紹介してもらいに、あるマンションの一画へ向かう。そこでは、複数の女性たちがパソコンのモニターに向かって裸になり、画面の向こうの男性たちと疑似的なセックスをして働いていた。そこでプライドを捨てきれなかったオルガは、経済的にも逼迫した社会から飛び出し、オーストリアに出稼ぎに出ることを決意する。その頃、ポールは夜中の警備員の仕事中に不良たちに絡まれ、職を解雇され、あっというまに無職に戻ってしまっていた。友人や義理の父親(『パラダイス:希望』で厳しい教官を演じていたミカエル・トーマス)への借金を催促されれあば言い訳をして逃げ、就職セミナーに参加しても無気力なままのポールを、義理の父親は見かねて、ウクライナへ向かう仕事に同行させる。ふたりは、それぞれが知らぬ場所で失われたものを求めて、お互いの国へ旅立つ。

本作も、「パラダイス3部作」でもお馴染みの“ザイドル・メソッド”に沿って生み出された、美しい、もしくは気持ちいいほどにきっちりとした構図をもつ映像と、ドキュメンタリーのようなカメラワークと演出が組み合わせり、フィクションのなかの切実としたリアルさをスクリーンに焼き付ける。そして、一見、淡々としすぎているように思える演出や編集は、絶妙なラインで緩和と緊張、辛辣さと滑稽さを共存させる。この絶妙なさじ加減が、堪らない人には堪らないのではないだろうか。かくいう私も、ザイドルの映像、演出の温度、編集のテンポや切り替わる前後のカットの関係、そして極稀に挿入される音楽のセンス(これら素晴らしい効果を生む)などに、かなり魅了されてしまっている。

オルガが、異国人であるが故の謂れのない差別や故国よりも裕福なオーストリアに住み続けるための非情な手段。老人医療の施設(ここにいる看護士は「パラダイス3部作」にアンナ・マリア役で出演し、ザイドル作品の常連であるマリア・ホーフステッター!)で出会った、ほぼ寝たきりの老人たちが喋る言葉に含まれる薄れていく生と濃くなる死の雰囲気。微かな希望を踏みつぶすような仕打ち。ポールが、義父と車で東欧に向かって進んでいくと目の当たりにする、突如貧しくなっていく社会。自国との明らかな格差。自分とは真逆の精神的にマッチョな義父が、金によって現地の若い女性を買う姿(ウクライナでのオンラインセックスで女性を相手にしていた画面の向こうの見えない強者と重なる)。反発したところで仕事を見つけることも、女性を誘うことも買うこともできない不甲斐なさ。

オルガとポールがそれらを通して感じたことを、一言で表してしまえば絶望という言葉になるだろう。しかし、その感情のなかで、全く交わることのないオルガとポールの現実が微かにシンクロするとき。オルガがふと信仰に身を寄せる瞬間。ポールがひとり道の路肩を歩いていく瞬間。ふたりの視線の先には、一度失われた光が、再び灯っていることだろう。

「パラダイス3部作」とも近似性をもつ、こちらも素晴らしい作品だ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

「パラダイス3部作」公開記念
3月1日(土)~3月12日(金)ユーロスペースにて連日20:00より上映!

監督:ウルリヒ・ザイドル
脚本:ウルリヒ・ザイドル、ヴェロニカ・フランツ
出演:エカテリーナ・ラック、ポール・ホフマン、ミカエル・トーマス、マリア・ホーフステッター

2007年/135分/オーストリア・ドイツ・フランス/デジタル/ドイツ語・ロシア語・スロヴァキア語

2007年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品