UNZIP

『自由が丘で』Hill of Freedom

ホン・サンス×加瀬亮!ふたつの素晴しい才能が出会い生まれた恋と時間の物語

約2年前、ふたりの素晴しい才能が出会い、意気投合した。世界が新作を待ち望むホン・サンス監督と国内のみならず海外の名だたる映画監督の作品に出演してきた加瀬亮。加瀬亮は以前からホン・サンスのファンであることを公言し、出演することを望んでいた。ホン・サンスはそんな加瀬亮に対して「本当に美しい人、是非一緒に仕事ができればと思う」。そして本作『自由が丘で』は生まれた。

語学学校で出会い、恋人同士だったクォンに再び会うために、ソウルにやって来た日本人の青年・モリ。しかし、いっこうに彼女に会うことができない。彼女の部屋の近くにあるゲストハウスに泊まり、同じ宿泊客たちと仲良くなりながら、また、カフェ<自由が丘>では女性のオーナー・ヨンソンと親しくなりながらも(そこにいる犬の可愛いこと!)、モリは彼女を探し続け、街を行ったり来たり。モリはクォンに宛てて手紙を書いている。飛行機に乗ってソウルに向かうことや、彼女に出会えずにいる日々のことを。すれ違うなかで、クォンはその手紙を受け取るも階段の途中でうっかり落としてしまう。順序がバラバラになってしまった手紙を彼女は読みはじめる。すると物語そのものも時間がバラバラな状態で語られはじめていく…。

街のなかでクォンへの思いを抱いて彷徨うモリ。クォンが落としてしまった手紙によって時間軸がバラバラになった物語。そして、観ている私たちもモリのように時間と物語の迷路のなかで彷徨う。

この時間の編集感覚がホン・サンスらしい。これまでのファンであれば嬉しくなってしまうところだと思う。時間は、監督にとって重要なテーマのひとつで、これまで何度も作品のなかで取り扱っている。例えば、『次の朝は他人』では男女が何度も同じ夜を過ごすかのような語りを見せれば、『3人のアンヌ』ではイザベル・ユペールが、その名の通り別々の時間のなかで3人のアンヌを演じ、同じ男性に3回出会うというパラレルな時間軸での語りを見せた。そして、今作では、クォンが手紙を落とすというちょっとしたきっかけから物語の時間軸を前後バラバラにしてしまった。こう言うと、なんだか最後に謎が解き明かされるようなトリッキーなサスペンス映画などを想像してしまうが、ホン・サンスが描くのはいつだって他愛もない日常的な男女の出会いや恋愛ばかり。しかも、その空気感はとても軽やかで、ちょっぴりユーモアがあって、かわいくて、そんななんでもないような恋物語がその時間感覚にしっくりはまるのだ。たんに、そういった手法に拘っているだけでなく、ちゃんと物語に寄り添っている。私たちだって、誰かの思いを抱いているとき、その時間は直線に流れてなどいなくて、モリのようにあっちこっち彷徨っているはず。

これまで数々の作品に出演してきた加瀬亮だが、本作では本当に自然体で観ていて心地いい。自身も心から待ち望んでいた出演だったこともあるだろう。また、ホン・サンス作品のなかではお馴染みともいえる、登場人物たちがお酒を飲み交わすシーンがある。実際に出演者にお酒を飲んでもらいながら演技をしてもらっていると監督自身も言っている通り、今回もおそらく実際のお酒を飲みながら撮影していただのだろう。こんな楽しげな加瀬亮の演技は観たことないし、観ているこっちまで楽しくなってきてしまう。

そして、マネージャーや通訳を同行させず単身で韓国へ撮影に向かったという加瀬亮が、偶然持って行った文庫本が、吉田健一著「時間」。ホン・サンスは事前に脚本などを用意せず、撮影当日、その場で役者にその日の台本を手渡すスタイルを取っていることから、今作のテーマにもぴったりの本を加瀬亮は携えていたことになる。「相思相愛」である(笑)。しかも、物語のなかでモリは実際のその本を手に携えながら街を彷徨う。

ホン・サンスは、いつだって軽やかな手つきで映画を魔法のような時間にしてくれる。本作はたった67分しかない!にも関わらず、その体感時間はもっと濃密なものになっているし、観終わった後には誰かと話したくなるはずで、いつまでも作品の余韻は続くだろう。ちょっとした会話がいつまでも心に残ったり、独特なモチーフの使い方について考えてみたり(今作では扉が重要なアイテムのひとつになっているのではないだろうか?)。ホン・サンス作品の常連陣の登場も、ホン・サンス・イズムとも言うべき、独特な編集感覚、カメラワークなどもこれまでのファンにはたまらないし、ホン・サンス作品をはじめて観た方とっては、新鮮で、ちょっぴり不思議な体験になるだろう。でも、なんら肩肘はらず楽しめる、ホン・サンス・マジックともいうべき、他に類を見ないような映画の魔法が散りばめられている。いつ観てもホン・サンスの映画は楽しい。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

12月13日(土)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!

監督・脚本:ホン・サンス
出演:加瀬亮、ムン・ソリ、ソ・ヨンファ、キム・ウィソン、チョン・ウンチェ、ユン・ヨジョン、イ・ミヌ
提供:ビターズ・エンド、サードストリート
配給:ビターズ・エンド

(2014年/67分/韓国/ビスタ/カラー)

TRAILER