UNZIP

『家族の灯り』GEBO ET L’OMBRE

現役最高齢の偉大な巨匠マノエル・ド・オリヴェイラが現代に向けるまなざし

2013年12月に105歳を迎え、世界から敬愛され続ける現役最高齢の映画監督マノエル・ド・オリヴェイラ。90歳を越えて尚、年に約1本のペースで意欲的に新作を生み出し続ける巨匠である。そして、今回、オリヴェイラ作品に、初登場となるのはフランスの大女優ジャンヌ・モロー、フェリーニやビスコンティなどイタリア映画界の巨匠たちに愛されたクラウディア・カルディナーレ、そしてエルマンノ・オルミ監督の『楽園の旅人』での名演も記憶に新しいマイケル・ロンズデール。まさに映画界の至宝による競演だ。

波止場でが佇むある男は遠くを見つめている。そのひらけた視線の先にはなにがあるのか…、そんなことを思わせる場面から物語の幕は開ける。それも束の間、場面は転換される。そこに映し出されるのは、石造りの家の窓辺で、誰かを待つように佇む婦人ソフィア。窓の外で街灯が灯されるのを見つめている。彼女は、会計の仕事をする義父ジェボと義母ドロテイアとともに、貧しいながらも石造りの家で慎ましく暮らしている。彼らは待っている、8年前に姿を消した息子を、そして夫を。

物語のほとんどは、この家の中で語られる。カメラは微動だにせず、ワンシーン、ワンシーンを、美しい陰影に彩られた(まるでレンブラントのような)絵画の如く切り撮っていく。ほぼワンシチュエーション、カメラは移動もズームなどを全くしないフィックスという大胆かつシンプルな演出と、豪華な名優たちの見事な演技が、悲しみを抱えた家の中という「閉じられた空間」を、あたたかな灯りのように満たす。夫妻の友人であるカンディニア(ジャンヌ・モロー)が家にやって来ると、珈琲を飲みながら芳醇な会話の時間が始まる。

しかし、ジェボは息子の失踪の秘密を抱え、息子の不在を嘆き続ける妻をとりなすために些細な嘘を重ねていく。美しい灯りは、翳りをともなう。そして、突然の息子ジョアンの帰還が、家族を大きく揺り動かす。そのとき、ジェボはある大きな決断をすることになる。

私たちは、他人の家族の内側のことを容易に知ることが出来ない。多くの場合、窓からこぼれ落ちる灯りを外から眺めるだけで、そのとき、その灯りは、あたたかそうに見えるが、実際に、その灯りが家の中にどのよううな翳りを生んでいるか、知る由もないのだ。

これは愛する者の不在と貧しさ、そして誠実さが生んだ悲劇だとも言える。しかし、それらは、彼ら家族の内側だけで生まれた翳りなのだとは言い切れない。それは現代社会が私たちにもたらし得る問題をも照射している。そこに、マノエル・ド・オリヴェイラが、1923年の戯曲を、こうして現代に映画に書き換えた意図があるのではないだろうか。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2月15日(土)より岩波ホールほか、全国順次公開

監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
原作:ラウル・ブランダン「ジェボと影」
出演:マイケル・ロンズデール、クラウディア・カルディナーレ、ジャンヌ・モロー
レオノール・シルヴェイラ、リカルド・トレパ ルイス・ミゲル・シントラ

2012年/ポルトガル・フランス映画/フランス語、ポルトガル語/91分/カラー

配給:アルシネテラン

TRAILER