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『メビウス』moebius

全編セリフなし!母、父、息子の業がメビウスのように巡る!

キム・ギドク監督の新作を語るときは、いつも「衝撃的」だとか「問題作」といった言葉を使わなければならない。何度もその言葉を使えば、真実味が薄れてしまうと分かっているのに、また、その言葉を使わなければならない。

母、父、息子が住む家。ひと目で裕福とわかるような住宅に棲む3人。しかし、お互いに会話することもなく、その関係は冷え切っている。父が近くに住む女と不倫していることに気づき、嫉妬に狂い始めた母は、ある夜に父の性器をナイフで切り取ろうと目論むが失敗。するとその矛先は息子に向かう。寝込みを襲い、息子の性器を切り取ってしまう。そして母は姿を消す。自責の念にかられどうにか息子を救おうとする父は、性器を使わないオーガズムへの達し方や性器移植について調べ始める。一方、父の愛人に会いに行った息子は、その女に誘われる(クレジットを観るまで気づかなかったが、「母」と父親の不倫相手の「女」は、イ・ウヌが一人二役で演じる。これもある意味で、歪な輪を作り上げている要素になっている)。いびつに捩じれた底のない淵に落ちていく3人。そして衝撃的としか言いようのない次元へ辿り着いたとき、それはメビウスの輪の如く円環を閉じようとするのだが…。

この作品にはセリフがない。笑う、泣く、叫ぶという感情しか発しない登場人物はどこか動物的ですらあり、滑稽で愚かしくも見える。しかし、だからこそ本能的で、核心的な振る舞いにも見える。人間の欲望や愛などといった業が、むきだしになる。人間が言葉によって知や理性を得た生き物だとするならば、彼らはそれらを失った存在だ。人間の奥底にあるどろどろとしたものを表出させた存在。そういった存在に対峙したとき、私たちも言葉をなくす他ない。

キム・ギドクは監督復帰後、前作『嘆きのピエタ』で第69回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を獲得した。ピエタとは哀れみ・慈悲という意味であり、十字架から降ろされたキリストを抱きかかえる聖母を表す。「母/女性」は、復帰後のキム・ギドクにとって重要なテーマに違いない。『嘆きのピエタ』と『メビウス』に登場する「母」はある意味で対の存在とも言えるのではないだろうか。そして、家族というテーマは、自身が制作・脚本・編集をになった『レッド・ファミリー』でも扱われている。

性欲、家族、血、愛…。さまざまな表現で語られてきたために、それらを観て、いつの間にか理解したつもりになった私たちの目の前に、「そうじゃないだろ」と、むきだしの状態の性欲、家族、血、愛をゴロンと生々しく曝してしまった。単にエディプスコンプレックスということだけでは収まりきらないような、はっきり言って、簡単には理解できるような作品ではないのかもしれない。しかし、どうにか理解しようと、目を背けたいのに、そこから目を背けることもまた出来ないジレンマがいつまでも残る。その堂々巡りすらもまたメビウスのようだ。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

12月6日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開

監督・脚本・撮影・編集:キム・ギドク
出演:チェ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ、イ・ウヌ

2013年 / 韓国 / 83分 / カラー / ビスタ / 5.1ch / R18+

配給:武蔵野エンタテインメント

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