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『パラダイス:愛』PARADISE: Love

『愛』を求めて彷徨うテレサの抑圧と解放の美醜

カンヌ、ヴェネチア、ベルリンと世界の三大映画祭に相次いで出品されて、それぞれに物議を醸した「パラダイス3部作」。ドキュメンタリー監督としても世界的に評価されているウルリヒ・ザイドルは、独自に生み出したメソッドで作品を生み出す。ドキュメンタリー的環境でフィクションを撮る。従来の脚本に支配されずに、現場ではシーンとセリフは即興的に作られていく。プロ、アマ、どちらの俳優も使う。効果的な音楽を使わない。ザイドル独自の精密な構図を持ち、登場人物がカメラと正対するショットもある、など。01年の『ドッグ・デイズ』や07年の『インポート・エクスポート』でその評価を確固たるものにし、ジョン・ウォーターズ、ヴェルナー・ヘルツォーク、同じオーストリア出身のミヒャエル・ハネケらが、ザイドルの作品に賛辞を贈る。

そして、本作では、オートリア・ウィーンに住むの50代のシングルマザーのテレサ、その妹アンナ・マリア、テレサの一人娘のメラニーの3人の女性の『愛』への、『神へ』の、『希望』への欲望の物語を3部作で描く。

1作目『パラダイス:愛』で、テレサは、娘のメラニーを妹の元へ預け、色彩に溢れ、まさに楽園と呼ぶにふさわしいようなケニアの美しいリゾート地にヴァカンスにやってくる。あるとき、ヴァカンスに同行した友人が、現地の黒人青年を良い関係になっていると告げる。それは、リゾート観光という表向きの愉楽の背後にある、現地の黒人青年たちに金銭的な援助をする代わりに、白人女性観光客は愛を得るというセックス観光だ。そういった観光客は“シュガーママ”、青年たちは“ビーチボーイ”と呼ばれる。テレサが滞在するホテルの敷地内にある浜辺は、膝丈ほどの柵があり、警備員が巡回し、現地の黒人青年たちは観光客たちに近づくことはできない。しかし、その柵の向こうー波打ち際に近い方ーで、現地の黒人青年たちは佇みこちらを伺っている。ホテルは大きなプールあり、そこでは黒人のスタッフたちによるアクティビティが行われている。リゾート地のその光景を観ているだけで、どこか植民地主義の名残のような印象や格差社会の表れのような居心地の悪さ、歪な違和感や窮屈さを少しずつ感じさせる。

どこかテレサの抑圧している何か…それを次第に感じさせ始める。それは、なんだろうか。冒頭、自閉症患者のヘルパーとして遊園地のゴーカートで楽しむ彼らを見つめているテレサが映し出される。ホテルから娘に電話を掛けるが、いっこうに出ては、そんなときテレサは、留守番電話に観光を楽しんでいると残す。それはどか虚空に向かって喋っているだけのよう。シングルマザーで娘を育て、50代になり、たっぷりと太って、ずいぶんと“愛”から遠ざかっているテレサ。

友人の話を何度か聞くうちに、次第に興味を持ち始めるテレサは、浜辺の柵を越えて踏み出す。やかましく近寄ってくる物売りたちをあしらいながら、そのなかで、物売りたちとは、違う雰囲気ともった青年と出会う。テレサを女として接してくれ、美しいとさえ称えるその青年。テレサは、“ビーチボーイ”に出会う。ホテルに敷地の外へ出て行くことが、テレサを少しずつ解放していく。現地のスラムのような街の中で、青年とデートするテレサ。女としての悦びと思い出したように、振る舞い、そして“愛”にのめり込んでいく。当たり前のように、“ビーチボーイ”たちが、本当の愛をもって彼女に接しているはずはないのに、テレサはどこかで本当に彼らに愛してもらえると思っているように、真剣に彼らと向き合おうとする。

目を奪われるようなリゾートの光景のなかでのんびりと過ごす白人観光客たち。貧しくスラムのような街並と、そこに住む現地の人々。観光客と現地の人たちの境界である柵のすぐそばで、観光客たちが外側に出てくるのをじっと待つ“ビーチボーイ”たち。現地の黒人たちが働くホテルと“ビーチボーイ”たちに金を要求される観光客たち…、搾取する側とされる側の関係、それは、いったいどっちがどっちなのだろうか。中年で脂肪たっぷりに太り、「美しくない」はずのテレサたち“シュガーママ”を「美しい」と褒めそやす“ビーチボーイ”たち。テレサが“ビーチボーイ”との情事のあとに裸で横たわる姿は、古典的な絵画にでてくるような裸婦像のように美しい映像で映し出される。美醜の判断はどこにあるのだろうか。“愛”という自分の欲望をかなえるために妄執的なまでに突き進むテレサを観ていて、滑稽だと、痛々しいと思いたい。しかし、そうやって貶むような視線を持つことが出来ない。観光地という異化された空間で、抑圧から解放されたように自分の欲望に気づき、しかも、セックス観光という捩じれた異様なシステムのなかに取り込まれていく。

仕事や生活などの現実から解放されるためにやって来た、閉じられたリゾート観光地という“楽園”、そして歪んだ“愛”。欲望は人間の性で、それを否定することは難しいことだ。しかし、そういった欲望を抑圧する社会や現実に人々はとらわれ、そして、その解放や充足の場所・機会として誘導された先には、『パラダイス:愛』のような時間が流れている。

『パラダイス:神』につづく


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2月22日(土)よりユーロスペースほか、全国順次ロードショー

出演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング
監督:ウルリヒ・ザイドル

(2012年/オーストリア・ドイツ・フランス/カラー/1:1.85/DCP/120分)

配給:ユーロスペース

2012年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

公式Facebook https://www.facebook.com/paradise3.jp
公式Twitter @paradise3LFH

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