UNZIP

『ほとりの朔子』

波紋が広がる“ほとり”に立つ子供と大人の夏の物語

大学受験に失敗した18歳の朔子は、叔母の海希江とともに遠い海辺の街にある、もうひとりの伯母の家にやって来てる。親に小言を言われずにすむ環境でゆっくりと夏の終りの日々を過ごす朔子は、海希江の幼馴染みの兎吉やその娘の辰子、そして甥の孝史と知り合う…。

朔子を演じるのは、いま映画やテレビでの出演が相次ぐ、二階堂ふみ。この物語に登場する朔子は、これまでの彼女の役柄の中で最もと言っていいほどに、普通でどこにでもいそうな女の子なのだが、それがとても新鮮だ。リラックスして役柄を楽しんでいるようにも感じ、それが朔子をとても瑞々しく魅力的なものにしている。冒頭の電車で眠る場面や本作のメインビジュアルとなっている水辺に浸かる場面は、本当に美しく、それだけで魅入ってしまうほどだし、物語が進むとともにうつろいゆく表情は、少しずつ大人に向かっていく瞬間のようだ。

ここまで語るとまるでエリック・ロメールのようだが、たしかにその通りで、女の子が過ごす夏という設定やその雰囲気、淡い空気感、海と山に囲まれ風景とらえる映像の美しさは、ロメールを思わせる。しかし、ここから次第に深田晃司監督らしい、捻れた人間関係やシニカルな笑い、多彩な視点が展開されていく。

はじめはどこかぎこちなかった朔子も皆と打ちとけはじめる。とくに同世代の孝史とは親しくなり街や海辺などで語り合い、距離を縮めていく。しかし、彼らの知らないところで大人たちは複雑でもつれた人間関係を繰り広げ、それは次第にふたりを巻き込こんでいく。海希江や辰子は複雑な人間関係を持ち、孝史がバイトをしている兎吉が経営するホテルは複雑な事情を抱えている。ふたりはそんな彼ら大人たちや社会の問題に疑問や欺瞞を感じながらとらわれていく。しかし、彼らはそれでも先に進もうともがく。少しずつ成長するように…。

二階堂ふみ、太賀のふたりは子供と大人の狭間(子供から大人になる途中の自身のことでもあり、自分と他者の関係でもある)で、揺れうごく心境をとても自然に演じているし、鶴田真由、古舘寛治、杉野希妃らは、ときにシリアスで、ときに滑稽でもある大人を見事に演じている。とくに演劇出身でいま映画やテレビでもひっぱりだの古舘寛治は、深田監督の『歓待』に引き続いて相変わらずの存在感を遺憾なく発揮している。

物語の序盤はどこか居心地の悪さを感じさせる。それは朔子を含め人びとの距離感をの表れで、次第に彼らが打ち解けていくと物語は次第に心地良さと期待感と投げかけてくる。でも、そううまくことは運ばない。他者との距離が縮まれば当然のように、見えてなかったものが見えてきて、やがて、水の波紋が広がるように関係性が連鎖しはじめる。文章で書くと大袈裟になってしまうが、その匙加減がとても絶妙で、何気なく、テンポも良い。なおかつ物語のクリシェを微妙に裏切ってくるような感覚もどこか心地よい。次に何が起こるかわからないスリリングさがある。単なる瑞々しい青春物語にはおさまらない、深田監督らしい幅広い視点をもった希有な物語でありながら、とても清々しい感慨を残してくれる。

第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞を『歓待』で受賞した深田晃司監督は、本作でもフランスのナント三大陸映画祭でグランプリの“金の気球賞”と“若い審査員賞”を受賞している。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

1月18日より、渋谷シアター・イメージフォーラム、2月8日より、大阪シネヌーヴォ、他全国順次­公開!

出演:二階堂ふみ、鶴田真由、太賀、古舘寛治、杉野希妃、大竹直、小篠恵奈、渡辺真起子、松田弘子、想田和弘、志賀廣太朗
監督・脚本・編集:深田晃司
プロデュース:杉野希妃

(2013年 / 日本、アメリカ / カラー / スタンダード / 125分 / HD / Stereo / 日本語)

TRAILER