UNZIP

『スノーピアサー』SNOW PIERCER

ポン・ジュノが描く、いまだかつてない近未来SFエンターテイメント

世界中の映画ファンが待ち望んだポン・ジュノ監督の新作が、ついに公開される。フランスのバンド・デシネ(漫画)『Le Transperceneige』を原作に、監督自ら大胆に脚色した物語。地球の温暖化を食い止めるために、人類が世界中に撒いた冷却物質は、地球全体を雪で覆いつくた氷河期に変貌させていた。ほとんどの人類が死滅した世界で、永久機関を搭載し、17年間走行し続ける列車「スノーピアサー」が、“ノアの方舟”となり、限られた人間が、そのなかで生きていた。その閉鎖された空間は、車両前方で富裕層が享楽的に暮らし、貧困層は後部車両で虐げられた生活を送る、無情な階層社会。革命を起こし、列車のなかに新たな秩序と社会を手に入れようとする主人公カーティスは、貧困層の人々や列車のセキュリティを設計したナムグンらと武装して、先頭にいる列車の創造者のもとを目指す。

アメリカで次世代スターと評されるクリス・エヴァンスを始め、ポン・ジュノ作品の常連であり韓国映画を代表する名俳優・ソン・ガンホ。彼と『グエムル-漢江の怪物』で共演したコ・アソンなど、物語の設定同様に、多国籍で錚々たるキャストが揃った。そのなかでも異彩を放つのが、ティルダ・スウィントン。『ムーンライズ・キングダム』で心ない福祉局員を演じたと思えば、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』で21世紀に生き残る美しい吸血鬼。そして、本作では、列車の創造者・ウィルフォードの右腕で、貧困層を抑圧する総理であるメイソンを演じているのだが、他のキャラクターも圧倒するような存在感は、もとの見目麗しいイメージが瞬時に吹っ飛ぶ。ちなみに、ジョン・ハートとは『フロム・レフト〜』でも共演している。次回出演作はウェス・アンダーソンの新作とのこと。とにかく、ポン・ジュノらしい、観ているだけでワクワクするような存在感のキャラクターたちが勢揃いだ。

『アンストッパブル』や数々のノンストップ・アクションを思わせるような設定でありながら、列車を構成する階層社会は現実社会の縮図のようでもあり、彼らの武力対立は生粋のアクション映画でもある。さらに、原作がフランスという意味では、ジャン=ピエール・ジュネをも思わせるような列車の中の世界観でもある。階層になっている各車両を突破していく設定は、各ステージをクリアしていくゲームのようで、息つく暇も与えずに、一気に突き進む。その総合的な完成度の高さと独創性、圧巻の映像世界は、昨今、数多く生み出されてきたディストピア系近未来SFエンターテイメントとは、一線を画す。

本作の完成度が非常に高く、それだけで充分に楽しめるから、ここからは、余談になるが、ポン・ジュノ作品は、彼の他の作品と観比べると、また面白い。まだ、数えるくらいしか作品を発表していないにもかかわらず、様々のジャンルの映画を撮り分け、かつ、その完成度の高さは、「スピルバーグのようだ」とも言われることがある。しかし、それらの作品には、常に共通したテーマ、モチーフ、カメラワーク、アクションなどが、入れ替わり立ち替わり使われている。長篇デビュー作『ほえる犬は噛まない』以前の、短編を制作している頃から、もちろん良い意味で、基本的にやっていることが変わっていないのだ。それらは、ポン・ジュノが自身の作品のなかで、物語世界を駆動させる一貫したメソッドになっている。『殺人の追憶』の頃によく言われた雨のシーンは、『グエルム』や『母なる証明』でも効果的に使われいる(もちろん、本作は雪の世界なのでないが)。ジメジメした地下室や荒れた部屋などの閉ざされた空間。残酷な表現。どこか悲喜劇の境界に立つような登場人物たち。また、その人物たちや乗り物などが、移動するというアクション。犯人を追う、団地を駆け抜ける、怪物から逃げる、画面の奥行きを使っての移動、漢江の河を移動する何艘ものボート、息子のために奔走した母親が乗っているバス、それらをときに至近で、ときに望遠でブレながらも追いかけるカメラ。『ほえる犬は〜』で地下に住む浮浪者が犬に、『グエルム』でソン・ガンホがモンスターに、鉄の杭を“突き刺そう”としたように、本作では、雪を突き刺して移動し続ける列車=スノーピアサーそのものが、舞台となる。さらに、その閉ざされた空間のなかで、貧困層の人たちが先頭にむけて、大きな鉄の円柱を使って突破していく、という男性的とも言えるモチーフ。社会の底辺に生きる主人公たちがによって、人間的な、社会的な闇を辛辣に、ときに寓意的に表象するというテーマは、ほとんどの作品で同じだ。そう観ると、『スノーピアサー』は、ポン・ジュノ的フェティズム全開じゃないか!と楽しく突っ込んでしまいたくなる。さぞかし、ポン・ジュノ監督も楽しんだことだろう。気が早いが、未だポン・ジュノが描いていないラヴ・ストーリーなんかを、いつか観たいと、既に次回作が待ち遠しい…。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

2014年2月7日(金)、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー

監督:ポン・ジュノ
出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、ジョン・ハート、エド・ハリス
原作:「LE TRANSPERCENEIGE」 ジャン=マルク・ロシェット、ベンジャミン・ルグランド、ジャック・ロブ
脚本:ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:マルコ・ベルトラミ
VFX:エリック・ダースト

(2013年/韓国、アメリカ、フランス/125分)

配給:ビターズ・エンド、KADOKAWA

公式Facebook https://www.facebook.com/snowpiercer.jp
公式Twitter @snowpiercer_jp

TRAILER